自己破産|貸金請求、損害賠償請求

主文

[甲事件について]
1原告Aの請求を棄却する。
[乙事件について]
2被告Aは,原告Bに対し,金600万円及びこれに対する平成8年8月19日から支払済みまで年1割の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,甲事件及び乙事件とも,甲事件原告・乙事件被告Aの負担とする。
4この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

[甲事件]
1被告C株式会社,被告D,及び被告Bは,原告Aに対し,各自7472万6501円及びこれに対する平成8年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2訴訟費用は被告らの負担とする。
3第1項につき仮執行宣言
[乙事件]
1主文第2項同旨
2訴訟費用は被告Aの負担とする。
3仮執行宣言

第2事案の概要

甲事件は,原告Aが,被告らの商品先物取引の勧誘行為及び取引行為が不法行為にあたると主張して,被告Dに対し民法709条に基づき,被告C株式会社に対し民法709条,715条に基づき,及び被告Bに対し民法709条,719条に基づき,それぞれ損害賠償を請求した事案であり,乙事実は,原告Bが被告Aに対し消費貸借契約に基づき貸金返還を請求した事案である。
以下,甲事件原告・乙事件被告Aを単に「原告」と,甲事件被告C株式会社を「被告会社」と,甲事件被告Dを「被告D」と,甲事件被告・乙事件原告Bを単に「被告B」という。
1前提となる事実
当事者間に争いのない事実と,甲15,16号証,乙6号証の1ないし34,乙7号証の1ないし10,乙13号証の1ないし342,後記各証拠及び弁論の全趣旨により認める。
(1)当事者
ア原告(大正12年生)は,旧制中学卒業後,旧満州の電電公社や中部電力株式会社の前身である日本発送電株式会社での勤務を経て,昭和37年に,原告の妻の家業である紙製品の製造販売業で独立して,E株式会社を設立して平成3年まで代表取締役に就任し,紙箱の内抜加工業を経営したが,平成3年12月末に廃業した。
原告は,昭和32年3月ころ,株式を購入したことがあるが,専ら資産とするために行った現物取引であり,平成3年の廃業直後に手放した。原告は,名古屋市a区b町cの土地及び建物の持分各5分の4,同区d町e及びfの土地の持分各2分の1の不動産等を所有している(甲9号証,乙77ないし80号証,原告本人)。
被告会社と取引を始めた平成6年当時,原告は年金月額約20万円,駐車場の賃貸料月額20万円くらいの収入であった。
原告は,平成12年11月6日,養父亡F及び養母亡Gと離縁し,H及びIの三男としてH戸籍に入籍したため,F姓からH姓に変更した。
また,同日,Jを養子とする縁組届出を行った。
イ被告会社は,商品取引所で商品の売買取引及び売買取引の受託業務等を行うことを目的として昭和27年に設立された,資本金10億円の株式会社である。
ウ被告D(昭和22年生)は,昭和50年3月に被告会社に歩合登録外務員として入社し,平成8年12月に退職した。被告会社の外務員は,委託手数料の35パーセントが収入となるが,固定給はなく,通勤費や営業経費も自己負担で,退職金規程もなく,顧客とのトラブルから生じた賠償金なども自己負担という雇用条件であった(甲11号証の2,被告B)。
被告Dは,平成元年ころから,被告会社の社内規則で禁止されていたが,借名口座を使って自分で先物取引を行っていて,この取引の資金等をまかなうため,被告会社から住宅資金借替名目で2500万円を借り入れたり,いわゆるサラ金等から借入を行ったりしていた(乙82号証)。
エ被告B(昭和6年生)は,大学卒業後,K株式会社名古屋支社繊維部に勤務し,毛糸先物相場の機関店として被告会社と取引関係にあったことから,被告会社の社長の要望により,昭和44年8月,K株式会社を退職してCグループに入社し,昭和48年に被告会社の総務部長となり,海外事業部で海外(香港)勤務などを経た後に,昭和59年1月から,被告会社の本社第一営業部所属の歩合外務員となり,平成7年12月末日,65歳を機に被告会社を依願退職した。
被告Bは,歩合外務員として勤務していた間,被告Dとは同僚として懇意な関係にあり,平成8年1月から同年12月までの間,被告Dを扱い担当者として被告会社で先物取引を行っていた(丙4号証)。
(2)原告と被告らの取引
ア原告は,平成6年4月4日,被告会社名古屋本店(以下「被告本店」という。)を訪れ,被告会社と商品先物取引受託契約(以下「本件契約」という。)を締結して取引口座を開設し,持参した75万円を委託証拠金として被告会社に預託した。
この際,原告の担当となったのは,被告会社の従業員(登録外務員)であるLであった。
同月12日,原告は,被告本店を訪れ,新たに75万円を委託証拠金として入金し,金20枚の買建玉を行って,被告会社での先物取引を開始した。
その後,平成6年10月にLが退職したため,被告会社における原告の担当者が,Lから被告Dに交代し,同年12月以降,生糸,小豆,乾繭,綿糸,ゴム等,金以外の商品についても取引が行われるようになり,平成8年10月8日,原告は全建玉を決済して被告会社との取引を終了した。
イ平成6年4月12日の取引開始後,平成8年10月8日の取引終了まで,原告は,本件契約に基づき,別紙「取引経過一覧表」(以下「取引一覧表」という。)のとおり取引を行った(以下「本件取引」という。)。
原告は,平成6年4月4日以降,本件契約に基づき,被告会社に対し,委託証拠金として,現金合計6632万9057円及びM1000株の株券を,帳尻差損金として現金合計1977万6032円をそれぞれ交付し,他方,委託証拠金から現金合計1149万6156円及びM1000株の売却金全額を,帳尻益金から現金合計560万円をそれぞれ出金して受領した(乙6号証の1ないし34,乙7号証の1ないし11)。
ウ原告は,本件取引期間中の平成8年3月19日,被告Bに利息年1割,期限同年4月18日,借入金額600万円とする借用証(以下「本件借用証」という。)を作成して,これと引き換えに,被告Bから現金600万円を受領した(乙60,61号証,丙1,4号証)。
一方,原告は,本件取引期間中の平成7年3月13日から平成8年3月26日までN株式会社で,平成7年4月11日から同年7月6日までO商事株式会社で,それぞれ商品先物取引を行った(乙76,81号証)。
2争点
[甲事件について]
(1)本件取引における被告らの勧誘行為及び取引行為は違法か。
(原告の主張)
被告会社,被告D,Lは,次のとおり,当初から一連の全取引を通じて,違法な勧誘行為,取引行為を行った。
ア勧誘行為における違法性
(ア)不適格者に対する勧誘
a商品先物取引は,投機行為そのもので,危険な取引であり,取引の仕組みそのものも極めて専門的かつ複雑であるから,商品先物取引の顧客となる者は,先物取引の危険性に十分耐えうる経済力,自分自身で判断できる知識,能力のある者でなければならず,他人を積極的に勧誘する業者は,先物取引の適格性を厳格にチェックし不適格者を排除しなければならない。
b原告は,先物取引に関する知識,経験を有しておらず,経済力もなかったから,原告は,先物取引の不適格者である。
原告は,昭和37年から平成3年までの間,E株式会社の代表取締役であったが,原告の仕事は加工業であり,仕事上,商品取引や相場等の知識を得ることはなかった。
投資経験としても,昭和30年代半ばころ,資産として現物株式を若干持ったことはあったが,株の信用取引等投機性の高い取引を行った経験はなかった。
平成6年4月に原告が被告会社を訪問したのは,進んで先物取引を行おうとしたからではなく,新聞記事等で老後資金の貯蓄として「金」の投資がよいのではないかと漠然と考え,相談しようとしたからである。数回訪問するうち,Lから,「銀行の預金をするより利益が上がります。」との勧誘を受け,取引を承諾するに至った。
また,本件取引が開始された平成6年当時,原告は,既に事業を辞め,年金を主として収入源として生活していたから,当時有していた資産は,老後の生活にとって欠かせないものであった。
c市場が有効適切な機能を果たし得るようにするべき立場にある被告会社が,原告のような不適格者を勧誘することは,重大な違法行為である。
(イ)投機性等についての説明の欠如
a商品取引所において,商品先物取引に関し,投機性等の説明をしないで勧誘することは,商品取引員の受託業務に関する取引所指示事項(甲18号証の5の1,以下「取引所指示事項」という。)1(3)等で禁止されている。
しかし,Lは,平成6年4月に原告が初めて先物取引を行った際に先物取引の仕組みについて全く説明しなかった。
また,被告Dは,利益が出ることが確実であるかのような勧誘に終始し,原告に取引の仕組みや危険性,投機的本質を理解させるような説明を一切しなかった。
このように,L及び被告Dの勧誘行為は,取引所指示事項等が禁止する投機性等の説明の欠如に該当する。
b投機性等の説明は,単に抽象的に述べるだけでは足りず,取引の仕組みとともに詳細に説明し,理解させなければならない。
また,取引に入って実際に損が出ても,「損は取り戻せる」との担当者の言葉を信用して次の取引に入り,次々と損を出すにあたり,正常な判断ができなくなり,「損は必ず取り戻せる」との担当者の言葉を信じるしか他に方法がなくなるのが実態であるから,1度損を経験した後は,先物取引の危険性がわかったはずであるとの議論は,この実態を見落としたものである。
(ウ)断定的判断の提供
a被告Dは,平成6年12月初旬ころ,原告に対し,「今,生糸が買い時です。
年利3割,4割確実に利益が上がります。生糸で金の損を取り戻しましょう。」「小豆で儲けましょう。」等と断定的判断を提供して,次々に新たな商品の先物取引を行うことを勧誘した。
これは,商品取引所法94条1号及び受託契約準則22条2項に違反する行為である。
b断定的判断を提供したか否かは,先物取引の財産喪失の危険性の大きさや,説明を受ける顧客の側の知識,経験等も考慮して判断されるべきである。
例えば,「今がチャンスです。」との言葉も,先物取引の危険性の本質について十分認識していない顧客のとっては,断定的判断の提供になりうる。
イ取引行為における違法性
商品取引員は,問屋ないし準問屋であり,委託者の注文の単なる取り次ぎ者ではなく,取引所に対して自己の名と信用で取引注文をするものであるから,商品取引員は,受任者として,委託者に対し,善良なる管理者の注意義務を負う。
そして,委託者が一般大衆である場合は,さらに高度の注意義務が課せられている。
被告Dらは,これらの義務に違反して,以下のとおり違法な取引行為を行った。
(ア)無断売買,一任売買
被告Dは,平成6年12月以降,殆ど全ての取引につき,原告に無断で自己の判断に基づいて一方的に取引を行った。
被告Dの同行為は,無断ないしは一任売買であり,商品取引所法94条3号,4号,同施行規則33条3号,受託契約準則23条1号,2号に違反する。
原告の入院中にも取引が継続されているのは,被告Dが原告に無断で取引を行っていたからである。
無断売買は,後に顧客が追認したとしても違法は治癒されず,また,一任売買の禁止については,証券取引と異なり例外は認められていない。
(イ)無意味な反復売買
a短期間の間に頻繁な売買を繰り返し行うことは,取引所指示事項2(1)等によって禁止されている。
特に,その間の既存の建玉を仕切ると同時に同方向の建玉を行ったり(買直し,売直し),反対方向の建玉を行ったり(途転)等,無意味な反復売買が繰り返されている場合には,手数料稼ぎのいわゆる「ころがし」がなされたものといえる。
この行為は,委託者と商品取引員との間の信頼関係を裏切って委託者のために誠実に業務を執行すべき任務に違背して委託者に損害を与えるか,又は商品取引員が自ら利得した点が背任罪もしくはその類似行為であるから,違法である。
b本件においては,取引の全期間を通じて頻繁かつ無意味な建て落ちが繰り返されており,売り直し,途転,日計り等の取引が随所に見られ,その取引回数(玉を建てて落として1回と計算し,建てた後にいくつかに分かれて決済されているものは,その決済の1回ごとを回数に数える。)は,589回を数え,明らかに手数料稼ぎのころがしがなされていて,著しい違法性を有する。
(ウ)特定売買等
aチェックシステム及びミニマムモニタリングによる規制
(a)農林水産省と通商産業省は,商品先物取引の受託者事故の未然防止,委託者保護の強化,商品取引員の社会的信用の向上を図ることを目的として,昭和63年12月26日付共同通達「商品取引員の受託業務の適正な運営の一層の確保について」(甲1号証の1)を行い,同通達に即して平成元年4月1日から農林水産省は「委託者売買状況チェックシステム」(甲1号証の2)を,通商産業省は「売買状況に関するミニマムモニタリング(LLT)」(甲2号証の4)をそれぞれ導入した(以下これらを「チェックシステム等」と総称する。)。
チェックシステム等は,取引内容の分析・精査及び報告を商品取引員に対して義務づけるものであり,売又は買直し,途転,日計り,両建,手数料不抜けを「特定売買」として取り上げて,@特定売買の比率を全体の取引の20パーセント以下にする,A手数料化率を10パーセント程度に押さえる,B売買回転率を1か月に3回程度に押さえるという方向で指導していくという基準である(甲2号証の1,2)。
(b)両建について
両建(同一商品につき,売又は買の新規建玉をした後又は同時に,対応する売買玉を手仕舞せずに反対の建玉を行うこと)を行うと以後の損益が固定され,経済的には,両建をせずに引かれ玉(現在手仕舞うと損する建玉)を仕切り,その後の相場変動を待って新規建玉をするのと何ら変わらない。
この手法は,その一方の建玉を外して片建にするタイミングが難しく,利益を得るには極めて高度な先物取引に関する知識や技量,経験,相場観が必要である。
にも拘わらず,委託者に対しては,損失の拡大を防止して後日その損の回復が出来るかのような誤解を生じさせ,しかも,引かれ玉の評価損の拡大を放置しながら一方の玉を仕切って利益が出たかのような錯覚をもたらす不当な取引である。
また,委託者は新たな委託証拠金と委託手数料が必要になり,
無意味なコスト負担を強いることになるもので,単に商品取引員の手数料稼ぎの意味しかない。
(c)その他の特定売買
売又は買直し(既存建玉を仕切ると共に同一日内で新規に売直し又は買直しを行うこと)は,既存の建玉をそのまま維持するのと何ら変わらず,手数料分だけ委託者の損失が累積している点で,委託者にとって有害無益な取引である。
途転(売り,買いの仕掛けを180度転換すること)は,同一日内に相場の予想が逆になることは頻繁にあり得ないから,委託者にとっては無益で危険性の高い取引である。
日計り(新規に建玉し,同一日内に手仕舞すること)は,手数料の累積をもたらす点で委託者に不利益であるから,合理的な理由のない限り,委託者の指示に基づかないでなされた手数料稼ぎ行為の一徴表である。
手数料不抜け(売買取引により利益が発生したものの,利益が委託手数料より少なく,差引損となっていること)には,余程の合理的な理由がなければならないはずであるから,手数料不抜けが頻繁にある場合には,明らかに委託の趣旨に反する不合理な取引と言える。
(d)チェックシステム等が導入された経緯や,その制度趣旨から見た場合,特定売買比率,手数料化率,売買回転率等を分析することは,商品取引員の違法性,特に無意味な反復売買の有無を判断する上で有益であり,特定売買比率,手数料化率,売買回転率が一定の数値以上になる場合には,違法性が強く推定される。
b本件取引における特定売買
本件取引の期間は平成6年4月12日から平成8年10月8日までの911日で,全取引回数(特定売買に関する取引回数は,玉を建てて落として1回と計算し,建てた後,いくつかに分かれて決済されているものは全体を1回と計算する。)は504回である。
そのうち特定売買の回数は,別紙「特定売買一覧表」のとおり,売(買)直しが42回,途転が48回,日計りが28回,両建玉が26回,手数料不抜けが23回で,同一建玉につき特定売買が重複している場合に重複計算せずに計算すると,特定売買の回数は133回であるから,特定売買比率は,26.3パーセント(133回/504回×100)となる。
特定売買は,先物取引の危険性について十分理解している委託者であれば,通常指示して行わないものであるから,本件取引は,全体として,被告会社の利益を図る方向で,被告会社及び被告Dらにより誘導されたものと推認される。
特に,本件では,売(買)直し及び途転が極めて多いことは,手数料稼ぎのための無意味な反復売買であることを強く推認させる。
また,本件のように,しばしば両建がなされ,しかも同時両建,同日両建も少なくないことからも,本件取引が,被告らの誘導によりなされた無意味な反復売買と推認される。
c本件における手数料化率及び売買回転率等
全取引による差引損失が6900万8933円で,全取引における手数料額の合計が3691万0980円であるから,手数料化率は53.4パーセント(3691万0980円/6900万8933円×100)となる。
また,売買回転率は,取引期間中の取引回数(玉を建てて落として1回と計算し,建てた後にいくつかに分かれて決済されているものは,その決済の1回ごとを回数に数える。)が589回であるから,1か月平均19.4回(589回/911日×30)となる。なお,担当者が被告Dに交替した平成6年12月1日以降の取引(但し,平成6年12月中に仕切られた金の取引は除く)に関する売買回転率は,1か月25.5回(577回/678日×30)にも及ぶ。
さらに,本件取引における個々の取引期間をみると,全589回の取引中,190回(32.2パーセント)の取引が5日以内に決済され,316回(53.6パーセント)の取引が10日以内に決済されており,短期間で頻繁な建て落ちが繰り返されている。
dこのように,特定売買比率,手数料化率,売買回転率のいずれも極めて高い数値を示しており,しかも,取引全般にわたって短期間に建て落ちを繰り返しているから,本件取引は無意味な反復売買であり,原告が被告らの指示に盲目的に従ったものに他ならず,被告らの行為は社会相当性を逸脱したものとして違法である。
(エ)過大建玉
新規委託者保護管理協定(甲18号証の6の3)では,従来,取引開始後3か月以内の新規委託者からの建玉の受注を20枚以内に制限しており,同協定は現在廃止されているが,被告会社の内部規則(乙71,72号証)で新規委託者について3か月の習熟期間を定め,その期間中の外務員の判断枠を20枚としている点で,その趣旨は尊重されている。
また,受託業務に関する規則4条(甲18号証の7)等は,委託者の資産状況や商品先物取引の経験等に照らして過大な取引を行うことを厳に戒めている。
しかし,原告は,L及び被告Dの勧誘により,取引開始後3か月以内に80枚の建玉を行い,平成6年12月以降は,頻繁かつ過大な取引を行い,同7年2月1日の時点では,生糸が94枚,乾繭が18枚の合計112枚が建てられ,また同8年2月1日の時点では,生糸が30枚,小豆が243枚,ゴムが117枚の合計390枚が建てられている。
原告は,この取引のため,老後の生活資金の全てを投入し,更に,金融業者から高利で多額の借入をして委託証拠金に充てており,原告の資産や経験に照らして多大な建玉がなされている。
(オ)顧客との金銭貸借,融資の斡旋
a被告Dによる違法行為
(a)取引所指示事項3,受託業務に関する規則5条(甲18号証の7)は,商品取引員が,取引のために顧客に金銭を貸し付けたり,金融機関等に融資を斡旋することを厳しく禁止している。
しかし,被告Dは,原告に対し,被告B,金融業者,サラ金業者を紹介して借り入れをさせて,その金員を委託証拠金として被告会社に入金させた。
被告Dのこの行為は,高金利の融資を斡旋するもので,その違法性は著しい。
(b)被告Bからの借入について
平成8年3月19日,被告Dが原告に,不足証拠金として900万円を被告会社に入金するよう請求した。
その際,原告は,取引による損が発生しているときは,金員を出さなければ取引をやめることができないと誤解していたため,「300万円は娘から借りて出すけど,それ以上は全く出せないので,これを最後に全部決済してほしい。」と手仕舞を要求した。
ところが,被告Dはこれを拒否し,「必要な600万円は,こちらで用意ができました。」と述べて,無理やり被告Bから600万円を借り入れさせた。
(c)Pサービスからの借入について
平成8年4月から5月にかけてのPサービスからの借入についても,被告Dが借入をするように原告に強く勧め,一切の段取りを行ったものである。
不動産担保に際しての抵当権設定登記費用等30万円を被告Dが負担している。
(d)Qからの借り換え
平成8年8月ころ,被告Dは,原告に対し,Qを紹介し,同社からの借入を強く勧めて,同社から4000万円を借り入れさせた。
借入金のうち,1000万円については,被告Dにおいて責任を持って返済することを被告Dが確約した。
b被告Bによる違法行為
被告Bは,被告会社の元従業員であり,商品先物取引に関し顧客に融資を行ったり,融資の斡旋を行うことの違法性を十分に熟知していることから高い注意義務を負っているので,被告会社の従業員に加担して勧誘行為等を行う場合に,商品取引員やその従業員と同等の義務を負う。
にもかかわらず,被告Bは,被告Dから,原告が被告会社で商品先物取引を行っていること及び原告が先物取引の証拠金の支払いに窮していることを告げられて貸付を依頼されたのに対し,先物取引の証拠金に充てることを認識しつつこれを承諾したことにより,被告Dとの間で民法719条の共謀が成立し,その上で原告に対し600万円を貸し付けた(以下「本件貸付」という。)。
したがって,被告Bの原告に対する本件貸付行為は,明らかに社会的相当性を逸脱して違法である。
(カ)仕切拒否
a原告は,平成7年4月ころ,被告Dに対し,建玉から一定の範囲以上の値動きがあった場合は直ちにその建玉を仕切るよう申し入れ,被告Dは,そのころ,原告との間に,一定の値段になれば自動的に損切りするとの約束をした(以下「ストップロスの取り決め」という。)。
しかるに,被告Dは,ストップロスの取り決めを全く履行せず,また,原告が,平成8年3月19日,手仕舞の要求をしたのに拒否し,その後も,平成8年10月8日に至るまで原告の仕切要求を拒否し続けた。
これは商品取引所法94条1項3号,同施行規則33条1号,取引所指示事項2(2)に反した違法な行為である。
b仕切拒否は,大きな損失を被る危険の高いものとして高度の違法性を有する。
顧客の手仕舞指示に対し,直ちに従わずに取引の継続を強く勧め,最終的に思いとどまらせた場合も,仕切拒否に該当する。
(被告会社及び被告Dの主張)
原告の前記主張は,すべて否認する。
ア勧誘行為における違法性の主張について
(ア)不適格者に対する勧誘
原告は,E株式会社の代表取締役を務めた会社経営者として,長く商取引や経営判断に携わってきた。
また,原告は信用取引を含む株式等証券取引の経験も長く,相場取引に関する知識経験も豊富であり,不動産及び有価証券等の資産や資金を有し,廃業後も株式等の投資事業や不動産事業を継続しており,商品先物取引の適格性に欠けるところはなかった。
原告は,当初から金の商品取引を行う意思を有し,取引資金を用意して被告会社を訪れたのであって,被告会社担当者が先物取引を行う意思も能力もない者を無闇に先物取引に引きずり込んだ事実はない。
原告がN株式会社及びO商事の店頭に赴いて商品先物取引をしていた事実,及びビルの6階にある被告会社のディーリングルーム(商品取引店頭)に1人で出向いていることからすると,原告は,本件取引以前にも同業他社で先物取引を行っていたと強く推認される。
(イ)投機性等についての説明
a原告は,平成6年4月4日,被告会社を訪れ,Lが店頭において担当した。原告は,金の商品先物取引に相当の知識と関心を有し,金の買注文を決めていたが,Lは,原告に,「商品先物取引ー委託のガイド」(乙8,9号証,以下「委託ガイド」という。)や金の相場情報(グラフ)等の資料を交付し,金の取引単位,委託証拠金,限月,追証及び取引方法等を説明した。
そして,Lは原告と金相場の値動きを検討し,買付時期や買付値段等を話し合った。
その上で,原告は,同日,被告会社と商品先物取引受託契約を締結して取引口座を開設し,持参した75万円を委託証拠金として被告会社に預託した。
また,原告は,被告本店のR営業部長に対し,株式の信用取引の経験があり,担当者からの説明で商品取引の仕組及び追証制度を理解した旨話してい
る。これらの事実からすれば,被告会社の担当者らに説明義務違反はない。
b先物取引の投機性については,委託ガイドほか,各種のパンフレット類に「損失を被るおそれ」のある旨が随所に記載されており,商品先物取引が,相場取引であって,ハイリスク,ハイリターンの取引であることは,社会的にも常識とされているから,株式の信用取引経験のある原告が,商品先物取引の投機性や危険性を理解していなかったはずはない。
(ウ)断定的判断の提供
a被告Dが原告に「年利3割,4割確実に利益が上がります。」等と述べた事実はない。
原告は,外務員Lにつき,被告会社管理部のSに対し「L君は勧めないから好きだ。
いらんことを言われると間違ったときに腹が立つからその点でL君は気に入ってるよ。」と述べており(乙18号証),外務員の「断定的判断」を容易に信用する性格でなく,原告の判断により対応したものである。
b被告Dが原告の担当となって2か月ほどは,原告の売買状況に変化はなく,原告が被告Dの勧誘に安易に影響される心理的状況になかったこと,及び被告Dも執拗に売買を勧誘することがなかったことが示される。
なお,金以外の商品の取引が開始されたのは,金相場で利益が出せず,原告が,平成6年11月末に値洗損(値洗いとは,商品取引等で受渡期日の到来していない未決済の契約を最新の市場価格に引き直して,その差額をやり取りした上で取引を続けること。)を抱えて対応に行き詰まって被告Dに相談したところ,被告Dから動きのある商品による短期の利食い売買で利益を出す方法を助言されて,原告も了承し,同年12月以降,実践していくことになったものである。
イ取引行為における違法性の主張について
(ア)無断売買,一任売買
被告Dは,原告と電話や来店時の面談で連絡をとり,売買結果(値洗状況)や相場動向を踏まえつつ,今後の相場対応(新規建玉や仕切り)を相談しながら売買取引を継続して行った。
a原告は,週に1,2回の割合で被告本店に来店し,担当外務員のL又は被告Dと面談して説明を受けながら,今後の相場展開を相談して売買方針を決め,事前の電話連絡にて売買指示を確認し,売買が実行されていた。
また,原告は,来店時には,セリ値を表示する電光掲示板や値動グラフ等に目を通したり,被告Dと昼食をともにして相場対応を相談するなどしていた。
b被告Dは,売買の有無にかかわらず,ほぼ毎日,頻繁に原告と電話連絡を取り合い,当日の値動や相場見通しを説明し,原告の建玉状況や値洗状況を確認しながら売買対応を取り決めていた。また,売買成立後も改めて電話連絡し,売買結果は,翌朝に被告会社管理部から原告宛に発送される「売買報告書・計算書」(乙13号証)に記載されていた。
原告は,同報告書や残高照会通知書(乙22号証)の記載内容にも触れながら,被告Dと相場対応を相談しており,自己の取引内容について正確に把握していた。
c原告は,被告本店のR本部長や,T支店長等とも親しく挨拶や面談を交わしていたから,仮に原告の意思に反した売買が行われていれば,原告は,その旨を被告本店の役席者らに指摘して担当外務員の変更等の救済を求めることも容易であった。
dなお,無断売買は禁止されるが,委託者の損失を回避するため,それまでの売買対応から推測される委託者の意思を忖度し,外務員が臨機に売買対応を取り,事後に承諾を得ることは例外的に許容されるものと解される。
また,委託者と外務員との間に信頼関係が形成された場合,取引経過を踏まえた相互了解事項を前提として新たな売買指示がなされることが多く,当然の事柄は省略されたり黙示的に指示されるようになるのであり,これは準則等の禁止した一任売買とは異なるものである。
e原告は,外務員Lが担当の間は,自分の思い通りに売買ができたと認めているが,その間,原告は,「買い難平(ナンピン)」という高度な相場手法を実行している。
これは,原告が,長年の株式取引や先物取引の経験によって「難平」という高度な売買テクニックを身につけており,しっかりした相場観も有していたことを示している。
原告は,担当が被告Dに代わった後も,平成6年10月20日に預託証拠金から600万円を出金する等,自由に証拠金を出し入れし,原告の思う通りの売買取引を実行している。
(イ)無意味な反復売買
違法な反復売買とは,当時の相場状況や委託者の取引内容,委託者の意思に照らし,当該売買が合理性を有せず,専ら手数料稼ぎとしか考えられない売買を指すものと解されるが,本件取引において,手数料稼ぎの無意味な反復売買は存在しない。
原告とL及び被告Dは,相場対応を継続的に話し合い,相互了解の上で,長期間,多数の売買が反復継続されてきたものであるから,このような個別事情や委託者の意思を捨象し,形式的類型的に短期の決済や反復売買,日計り売買を捉えて,一律に違法と主張することは不当である。
(ウ)特定売買等
a売り(買い)直し,途転,日計り,両建,手数料不抜けのいわゆる特定売買は,委託者自身の自発的な選択判断によっても多々発生する一般的な相場対応(取引形態)であり,ホームトレーディングにおける取引記録においても両建や日計り売買が頻繁に生じている。商品取引所法136条の18第5項は,委託者の保護に欠け,又は,取引の公正を害する行為を制限するのみであり,特定売買自体が禁止されるものではない。
b農林水産省作成の「委託者売買状況チェックシステム」は,取引開始3か月未満の委託者が対象となっているから,本件取引における同チェックシステムの対象期間は,平成6年4月12日から同年7月8日までであり(その間の取引に特定売買は存在しない),被告Dが原告の担当となった平成6年10月以降の取引については対象とならない。
また,同チェックシステムは,特定売買の各売買方法自体を不当な取引方法と評価して,排除又は制限したものではない。
c原告主張の特定売買について
原告は,平成6年9月26日の金の手仕舞が手数料不抜けと主張するが,これは,原告が値上益を狙って同年7月6日及び同月8日に1250円又は1240円で買建てしたところ,7月下旬から8月中旬にかけて1240円台の揉み合い,8月下旬には1210円台に下落し,9月初めには1260円台を回復したが,以後1260円台を割り込んだり回復したりとの状況であったため,原告が1260円台のうちに買建玉を手仕舞いすることを選択した結果である。
また,原告は,平成7年7月20日の8月限の綿糸10枚の買建てと,同月21日の10月限の綿糸及び11月限の綿糸各5枚の売建てが両建であると主張するが,8月限の買建ては,相場動向から更に高騰すると予測して行ったものであり,10月限及び11月限の売建ては,相場急騰の反動による反落兆候での利食い狙いで行ったものである。
買建てした8月限の綿糸は,利食い狙いの売建てを行った同月21日時点では16万円の値洗利益を生じており,売建ての綿糸は,同月24日に手仕舞して6万4000円の利益を出している。
同月21日の売建てが両建にあたるとしても,原告は新規売建玉の手仕舞により現実に利益を出し,既存の買建玉も同月7月末までで利益を得る機会が少なくとも2度あったから,「損」を固定させる不当な売買とすべき根拠は存しない。
d両建について
相場が逆行し,既存建玉に値洗損が生じた場合でも,委託者の多くは相場反転に期待し,値洗損を出している建玉の早期の損切処分を避けて,建玉を維持する対応を選択するケースが多く,それ故,追証か両建かの問題が生ずる。
追証を選択した場合は,相場動向の如何によっては2度,3度と追証が必要になる可能性があり,しかも,相場逆行が継続し,資金が続かずに強制手仕舞となる危険もある。
これに対し,両建は,新たな資金追加をすることなく,値洗損の生じている建玉を維持し,相場の好転を待つことができるから,両建は,理由も実益もある相場対応策としての売買テクニックである。
通常は複数の機能や目的を意図して両建てされるのが実際であり,限月をずらした反対建玉や,既存建玉と枚数の異なる反対建玉の場合もあるから,流動的な相場対応の中で,「手数料稼ぎの無意味な」両建とはいかなる場合を指すのか明らかでない。
利益を出し成功した両建は委託者のための対応として委託者が問題ともしないにもかかわらず,結果的に損を出した両建は,それが両建関係にあるという定型的形式的な事実だけから,手数料稼ぎの無意味な違法行為として非難されるのは不公正である。むしろ,損切りは,損失確定が現実として残るが,両建では,両建玉とも利益にて処分する可能性が残るから,いずれが委託者に有利かは一概に決し得ない。
e売り(買い)直し,途転,日計り,手数料不抜けについて
売り(買い)直しは,これによって利益を確保し,又は損失を限定しうる実益が存在するのであり,同日中に仕切と新規建玉を行ったという形式的な理由で,当該売買が違法とされるものではない。
途転は,例えば,買建玉の手仕舞後,同日中に売建玉を新たに建てる売買であるが,相場の下落が予想される局面となったため,買建玉を手仕舞して売玉を建てて利益を狙うという相場対応は通常であり,それ自体,何ら問題はない。
日計りは,相場が急変する前に手堅く利益を確保したり,相場が逆行した状況で早めに損切りするために行う場合は合理的な対応であり,建玉と同日中の手仕舞いであっても不合理ではない。
手数料不抜けについては,建玉放置によるリスク(値洗損の増大)を回避すべく早期手仕舞を優先する場合,手数料分の値幅に至る以前に手仕舞をすることも不合理ではない。
f特定売買比率について
特定売買の多寡や頻度は,常に相場変動や市況材料に左右されるから,特定売買の比率自体に独自の意味があるのではなく,その時々の相場局面における商品取引員毎の特定売買比率を比較することに意味がある。
(エ)過大建玉
受託業務基準上,新規委託者については,取引開始後3か月間は習熟期間とされ,売買枚数は当該委託者の職業経歴,相場経験,資金力等を考慮した上,相当な範囲に止めることとされているが,20枚以内との基準は存在しない。
(オ)顧客との金銭貸借,融資の斡旋
a被告Bからの借入について
原告は,平成8年3月1日,帳尻益金から現金500万円を出金したが,同月中旬ころ,ゴムの値洗損が増加したため900万円の追証状態となった。
そのため,被告Dが原告に対応を打診したところ,原告は,損切ではなく建玉維持の判断であったが,被告Dに対し「300万円は用意できるが600万円は用意できない。一時的にお金を借りられるところはないか。」と尋ねてきた。
被告Dは,元同僚であった被告Bと会った際,原告の話をしたところ,被告Bが相談にのっても良いと答えたため,原告に被告Bを紹介した。
その結果,被告Bが原告に対し,600万円を貸し付けた。
原告は,平成7年3月の生糸相場で2200万円の損失を出したが,同年4月以降の綿糸,ゴムの取引で,合計2780万4092円の利益を出しており,生糸相場での損失を回復し得る状況であったから,平成8年3月初旬の段階で取引を清算し得たし,そのタイミングであった。
にもかかわらず,相場反騰に期待して追証を選択し,そのため急遽必要となった不足資金の調達を被告Dに依頼したのであるから,原告の融資仲介依頼は,原告の選択の結果である。
また,本件貸付金は追証資金であり,新たな売買のための資金ではないため,建玉枚数が増大し過大となる状況ではなく,被告Dとしても融資紹介にて新規売買の手数料獲得を意図したものではない。
bPサービスからの借入について
被告Dは,原告から,不動産を担保にした金員の借入先の紹介を頼まれ,Pサービスの社員と面識があったため,同社員に電話をして,原告との面談を調整しただけであり,原告の同社からの借入に伴う抵当権設定登記費用の負担もしていない。
cQからの借入について
原告と被告Dとの間でPサービスの金利が話題となった際,被告Dが,たまたまQの宣伝が入ったポケットティッシュを持っており,そこに記載された金利の方が低かったので,原告から借換の相談を受けたものである。
d外務員が融資斡旋によって委託者に取引を勧誘することを禁止する趣旨は,融資も利益提供による取引勧誘になること,余裕資金のない者に対し借財等によって資金を捻出させ取引に参加させることは不適格者に対する勧誘となること,取引失敗時に直ちに委託者の経済破綻をもたらすことなどの不都合を配慮したものである。
本件において,被告Dは,原告の取引開始後2年近く経過した時点で,原告の要請を受け,たまたま融資に応じてもらえそうな知人が存在したことから,両者の面談を斡旋したのであり,利益提供による取引勧誘や無資力者に対する取引勧誘とは異なるから,被告Dの行為は,前記の融資斡旋禁止の趣旨に抵触しない。
e念書(甲7号証)及び借用書(甲10号証)について
被告Dは,原告から親族会議で必要だからと懇願されて,やむなく形だけの書類として念書及び借用書に署名したにすぎず,真意に基づき1000万円等の借入金につき責任を負う旨記載したのではない。被告Dが債務負担の意思を有していたのであれば,破産申立において債権計上したはずである。
本件取引の過程で作成された文書は,いずれも作為的又は訴訟準備としての計画的な対応と推認される。
(カ)仕切拒否
aストップロスの取り決め違反について
原告と被告Dは,一定の値段になれば自動的に損切りする約束であるストップロスの取り決めをしていない。
仮に,原告主張のように,被告Dのストップロスの取り決め違反により損失を被ったのであれば,その損失額の大きさ及び約定違反の明白性から,原告は,O商事に対する苦情申立や折衝を弁護士に相談する際,この件に関しても相談し,優先的に訴訟提起したはずである。
b被告Dは,損金発生状態でも原告と頻繁に電話連絡を繰り返し,追証発生の都度,手仕舞か追証預託かを確認してその指示に従っていた。
被告Dとしては,原告からの仕切注文を拒む理由はなく,現に原告から仕切注文が出た場合,直ちにこれを実行している。
原告は,平成6年12月14日の手仕舞経験で,損切手仕舞に金員提供が不要なことを理解していたはずであり,取引経験を積みながら商品先物取引の仕組に対する理解を深めていたから,原告が平成8年3月当時,損が発生している場合,金員を出さないと取引をやめられないと誤解していたとは,考えがたい。
(被告Bの主張)
原告の被告Bに対する前記主張は,否認する。
ア取引所指示事項や受託業務に関する規則は,商品先物取引業者内部での取り決めで,その違反が直ちに違法となるべき性質の規範ではなく,商品先物取引業者でない被告Bの行為を律すべき規範でもない。
イ被告Bの原告に対する金銭貸し付けの経緯
平成8年3月中旬,被告Bは,被告Dから,600万円程の資金を1か月程借りたい顧客がいる,貸付相手は資産家の原告であり,銀行から土地を担保に融資を受けるのに時日を要し,その間繋ぎの資金が必要と打診されて,原告に対する貸付を内諾した。
同月19日,被告Bは,借用証(丙1号証)と引き換えに,原告に現金600万円を交付した。
この際,被告Bは,原告が被告会社で行っている商品先物取引の具体的内容や,貸付金の具体的使途について全く知らされておらず,ましてや原告に対し被告会社との取引を勧誘していない。
被告Bは,原告に対する好意から,原告へ本件貸付を行ったものである。
(2)被告らの責任及び因果関係
(原告の主張)
ア被告Dの責任
被告Dは,本件取引に関し,故意又は過失により,前記のとおり違法行為を行ったから,原告に対し,民法709条の不法行為責任を負う。
イ被告会社の責任
被告会社は,故意又は過失により,前記のとおりの違法行為を行った。
したがって,被告会社は,原告に対し民法709条の不法行為責任を負い,また,L及び被告Dの使用者として,民法715条1項の使用者責任を負う。
ウ被告Bの責任
被告Bの前記違法行為と,原告が被告Dから不足証拠金900万円を請求されたのに対し,建玉全ての手仕舞いを要求した平成8年3月19日以後に,発生,拡大した原告の損失及びこの損失に相当する弁護士費用との間には相当因果関係がある。
したがって,被告Bは,被告会社及び被告Dと共に,原告に対し,民法709条,719条により不法行為責任を負う。
(被告らの主張)
原告の被告らに対する主張は,いずれも否認する。
(3)被告会社及び被告Dの行為の違法性は治癒され,原告の甲事件請求は禁反言原則等により否定されるか。また,被告Dは破産手続で免責されたか。
(被告会社及び被告Dの主張)
ア原告は,平成7年3月の生糸相場で2200万円もの損失を被ったが,異議を述べることなく差損金を弁済して被告会社との取引を清算した上,改めて被告会社での取引を再開した。
仮に2200万円の損失が被告Dの責任であれば,一旦清算した被告会社での取引を,同じ被告Dを担当として再開することは通常考えがたいから,原告は,生糸相場での損失が原告自身の選択と判断による結果であったと納得していたものである。
原告は,O商事に対し訴訟を提起した平成7年11月15日以降,被告会社での従前及び事後の先物取引につき,委任弁護士と相談して対応を慎重かつ周到に協議しながら平成8年10月まで1年間にわたり被告会社での先物売買を反復継続した。
原告は,いつでも弁護士に相談して専門的かつ法的な観点から対策を立て得る状況にありながら,一攫千金を意図して相場取引を継続したのであるから,仮に原告が主張する違法行為が本件取引に存在したとしても,その違法性は治癒された。
イ平成8年10月になってから,平成6年4月に遡って被告会社における全取引過程における投機資金を全て損害として賠償を請求する原告の態度は,信義則上,禁反言原則に背反しているから,原告の甲事件請求は,責問権放棄,権利失効,権利濫用の法理により,認められない。
ウ仮に,被告Dが原告に対し損害賠償債務を負担するとしても,同債務の成立時期は平成8年10月までの取引期間中で,被告Dに対する破産宣告日(平成9年4月15日)以前であるところ,被告Dは,平成9年8月25日に名古屋地方裁判所にて免責決定を受けているから,同債務は免責の対象となり,被告Dに支払義務はない。
被告Dは,原告の甲事件請求を予想しておらず,また根拠のないものと判断しており,当初から原告に対し損害賠償債務を負うとは考えていなかったから,本件損害賠償債務につき破産手続で考慮しなかったとしてもやむを得ず,免責の効果は左右されない。
(原告の主張)
ア被告会社及び被告Dの主張ア,イはいずれも否認する。
原告は,O商事に対する訴訟を弁護士に委任した後も,被告会社との取引を継続していたが,この間,同弁護士に被告会社との本件取引について相談しなかった。
これは,増大する損害に直面した原告が,法的解決による問題の解決可能性を図りかね,結局,被告Dやその上司が原告との会談又は原告宅へ訪問して,損害を回復すると約束したことに望みを託したからである。原告が本件取引に関して最終的に司法救済を求める決断をしたことにつき,原告に落ち度はない。
イ被告Dの免責の主張は否認する。被告Dは,平成9年8月25日に名古屋地裁で免責決定を受けているが,原告の本件損害賠償債権の存在を知りつつ,債権者名簿に記載しなかったから,本件損害賠償請求権は,破産法366条の12第5号に当たり,免責されない。
(4)損害
(原告の主張)
原告は,被告らの不法行為により,次のとおりの損害を被った。
よって,原告は,被告ら各自に対し,前記損害の内金7472万6501円及びこれに対する本件取引が終了した後である平成8年10月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
ア取引による損害合計6900万8933円
原告は,被告会社に対して委託証拠金名下に次々と金員を支払い,返還を受けた金額を差し引いた6900万8933円が取引による委託手数料及び損金となり,同額の損害を受けた。
イ弁護士費用600万円
本訴の提起,遂行のため要する弁護士費用は600万円を下回らない。
(被告会社及び被告Dの主張)
原告の主張のうち,原告が6900万8933円の損失を被った事実は認めるが,その余は否認する。
(被告Bの主張)
原告の損害は不知。
[乙事件について]
(5)被告Bの原告に対する貸金返還請求の可否
(被告Bの主張)
ア原告に対する貸金返還請求権の存在
被告Bは,平成8年3月19日,原告に対し,600万円を利息年1割,期限同年4月18日の約定で貸し付け,その後,同弁済期限を同年6月18日に延期した。
原告は,被告Bに対し,同年8月18日までの利息又は利息相当額の遅延損害金として,同年5月15日に10万円,同年6月17日に5万円,同年8月29日に10万円の合計25万円を支払ったのみであり,貸付元金600万円を支払わない。
イ原告の主張に対する反論
原告の主張は,被告Bの原告に対する本件貸付が公序良俗に反するか不法行為を構成することを前提としているが,本件貸付は公序良俗にも反せず,不法行為を構成するものでもない。
特に,不法原因給付における不法とは,単なる強行法規違反や取り締まり法規違反ではなく,その行為の実質が当時の国民生活並びに国民感情に照らし反道徳的な醜悪な行為としてひんしゅくすべき程度の反社会性を有するかどうかによって決すべきであり(最高裁第2小法廷昭和35年9月16日判決,民集14巻11号2209頁参照),本件貸付にはこのような反社会性はない。
(原告の主張)
被告Bは,被告会社の元従業員であり禁止規定について熟知しながら,原告に本件借用書を書かせ,商品先物取引の証拠金とするため600万円を提供した。
被告Bのこの行為は,社会的相当性を著しく逸脱するもので公序良俗に反して無効であり,被告Bの原告に対する貸金返還請求は,不法原因給付として許されない。
また,被告Bは,自らの不法行為により原告に多額の損害を与えておきながら乙事件請求を行なうことは,信義誠実の原則(民法1条2項)に反し,また,権利濫用(民法1条3項)であって許されない。
(6)相殺(予備的抗弁)
(原告の主張)
原告は,被告Bに対し,平成9年9月18日の本件口頭弁論期日に,原告の被告Bに対する本件貸付債務と甲事件の損害賠償請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。
(被告Bの主張)
原告の抗弁は否認する。原告の主張は,被告Bの原告に対する本件貸付が不法行為になることを前提としているが,本件貸付は不法行為にならない。

第3当裁判所の判断

1原告と被告会社の取引経緯
前提となる事実と,甲5ないし10,15,16号証,甲11号証の1ないし6,甲9,12,14,17号証(各一部),乙2,8ないし12,16ないし21,23,59ないし62,70,71,76ないし82,85,86,89ないし91,95号証,乙1号証の1ないし3,乙6号証の1ないし34,乙7号証の1ないし10,乙13号証の1ないし342,乙24号証の1,2,乙52号証の1ないし7,乙55号証の1ないし128,原告の氏名が原告の自署であることは争いがないから真正に成立したものと推定される乙4,14,15,25ないし51号証,丙1ないし4号証,丙5号証の1,2,原告(一部),被告D,被告B各本人尋問の結果,及び後記各証拠,並びに弁論の全趣旨によると,次の事実を認めることができる。
(1)平成6年4月の取引開始に至るまで
ア原告は,平成3年12月末,紙製品の製造販売業を廃業してから,年金だけで生活することに不安があったため,約4300万円あった預金を投資して,老後の蓄えを増やそうと考えていたところ,新聞の商品取引の広告を読んで商品先物取引に興味を持った(甲9号証)。
イ平成6年4月4日,原告は,被告本店を訪れ,金の先物売買をしたいとの意向を伝え,被告会社の従業員であるLが原告の対応をした。Lは,委託ガイド(乙8,9号証)や会社案内,相場資料等を原告に渡しながら,先物取引の仕組みや証拠金制度,追証制度等について説明した。原告は,アンケートへの回答を求められ,@商品取引を始めた動機については「興味があり自分から」,A株式取引については「経験あり」,B商品先物取引については「経験ない」,C投機準備資金の予定については「500万円〜1000万円」,D委託ガイドについては「内容を理解していない」,E取引商品についての損益計算ができるか否かについては「できる」,F追証拠金に関する理解については「理解している」,G1日の値動きには値幅制限(ストップ高・安)の制度があること及び注文数量の全部の取引が成立するとは限らないことについては「知っている」との各項目にマルを付け,職業欄に「EKK代表取締役」と記載した上,署名した(乙14号証)。
原告は,取引を希望して被告会社での取引口座を開設したが,実際の売買注文は後日することとし,その日は,「自己の判断と責任において売買取引を行うことを承諾した」旨,及び,受託契約準則,危険開示告知書,委託ガイドを事前に受領した旨記載がある約諾書,並びにこれと一体となった通知書(乙1号証),準備金による委託証拠金充当同意書にそれぞれ署名押印し,受託契約準則(乙11,12号証),危険開示告知書,委託ガイド,パラジウム先物取引要綱(乙10号証)等を受領し,金12枚の取引予定ということで現金75万円を委託証拠金として納めて帰った(乙1号証の1ないし3,乙2,16,59号証)。Lは,顧客カードに見込み客として原告の情報を記載し,上司に報告した(乙16号証)。
被告会社の受託業務管理規則(乙71号証,以下「被告管理規則」という。)7条には,委託者ごとの売買取引状況調書を作成し,その売買取引の内容を常時把握するとともに,これを精査し,適切な委託者管理を行うとの定めがあるが,Lの上司である被告本店第一部のR担当営業部長は,同条項に基づく精査として,同日,被告本店6階の応接室で原告と面談した。
その際,原告は,R部長に,株式の信用取引の経験があり,商品取引の仕組みや追証制度はLからの説明で理解したと話し,R部長は原告に対し,再度,商品取引の投機性について説明して,慎重に取引するように指導をし,面談内容について同日付けの新規委託者に係る精査表(以下「精査表」という。)に記載して,被告本店長に報告した(乙17号証)。
ウその後,原告は2,3回被告本社を訪れ,Lと東南アジアの経済状況等について話をした(甲9号証)。平成6年4月10日過ぎころ,金相場が急落し,同月12日,原告は,被告本店を訪れ現金75万円を委託証拠金として納めて金20枚の買建玉を行って本件取引を開始し,翌13日,原告は,証拠金として現金75万円を再度入金した(甲15,16号証,乙7号証の1,乙13号証の1,乙55号証の1,乙59号証)。
同月28日時点での原告の建玉の内訳,値洗損益額,お預かり証拠金の現在高,委託証拠金必要額,差引損益金(帳尻),返還可能額等が記載された残高照合通知書(乙22号証の1)が,翌月2日に原告宛に発送されたが,原告は,同通知書に同封された残高照合回答書の「通知書のとおり相違ありません」との項目にマルを付した上で署名押印し,被告会社宛に返送した。
以後の本件取引期間中,毎月末(平成7年3月分を除く)に作成された残高照合通知書が翌月初めに原告宛に発送されたが,原告は,全ての通知書について,同封の残高照合回答書に署名押印して被告会社宛に返送した(乙22号証の1ないし34,乙24号証の1,2,乙23,25ないし51号証)。
(2)取引開始後,平成6年末までの経過
ア平成6年5月10日,被告本店管理部顧客サービス室のSは,被告管理規則7条の精査として,預託額や担当者の連絡等の問題点について,原告に電話で確認した。原告は,建玉,預り額,値洗については間違いなく,担当者のLに関しては,「勧めないから好きだ。いらんことを言われると間違った時に腹が立つから,その点L君は気にいっとるよ。」「連絡は朝9時ころむらっとる問題ないよ。」と答えた。
また,被告会社から原告宛に郵送された残高照合通知書の確認の有無について尋ねたところ,原告は,「確認したが大分損になっとるね。昨日戻ったから今日でトントン。」と答えた。Sは,原告との電話での面談内容を精査表に記載して被告本店の管理部長であるU及び店長であるTに報告した(乙18号証)。
同年5月初旬ころから金相場が上昇し始め,原告は同月19日に,委託証拠金として現金150万円を入金し,金相場が更に上昇した同月25日に,前記買建玉20枚を仕切って,2回の取引(玉を建てて落として1回と計算し,建玉後いくつかに分かれて決済されているものは,その決済の1回ごとを回数に数える。以下同じ。)で手数料を除いて合計43万5239円の差引利益が出た(甲15,16号証,乙7号証の1,乙13号証の1,乙55号証の1,乙59号証)。
イ平成6年6月16日,被告管理規則7条に基づく精査として,Sが再び原告に架電して,被告会社からの報告書等の確認の有無,担当者の連絡対応等について確認したところ,原告は,「金の先限で,1295円以下になれば5円くらいの値下がりを買い建玉したいと思い,L君に注文を出してある。」,「報告書を見て,今は建玉なしで,43万円の利益が出ていると思った。」,「指値が成立したら連絡くれと言ってある。余り繁々と連絡せんでいいと言ってある。」,「今のところ質問も何もない。」と答えたので,Sは,原告との取引は慎重に行われており問題ないと判断し,その旨精査表に記載して,U管理部長及びT本店長に報告した(乙19号証)。
また,原告は,同月20日,被告会社のアンケートに,@商品先物取引の危険性については「理解している」,A担当外務員の連絡の適否については「毎日ではないが時々」及び「要件のある場合は自分からする」,B委託証拠金預かり証の受領の有無については「受け取っている」,C被告会社が交付する報告書等の書類の確認の有無については「確認している」,D残高照合書の確認の有無については「確認後,回答ハガキを投函している」の各回答項目にマルを付して回答し,「担当L氏,温厚誠実でよき担当者と思う」との意見を書き添えた(乙15号証)。
ウ平成6年6月24日,金相場が下落したため,原告は,金10枚の買建玉を行ったが,その後も金相場は続落したため,同月27日,28日及び29日と連日合計40枚の金の買建玉を行った。同年7月初旬には,金相場が再び下落したため,原告は,同月6日,8日と合計30枚の金の買建玉を行った。
それとともに,同月5日,6日に委託証拠金を入金して,証拠金現金残高を1000万円とし,さらに同月6日には「M」の株券を代用有価証券(182万円分)として納めた。原告は,同年7月に建てた買玉30枚を,ようやく金相場が上昇した同年9月26日に仕切って,1回ずつの取引で9万2630円の差引利益(以下,差引利益は手数料を控除した金額である。)と,1万4742円の差引損失(以下,差引損失は手数料を含めた金額である。
)が生じた(乙7号証の1,乙55号証の2,乙59号証)。
なお,被告管理規則6条3号は,商品先物取引の経験のない新たな委託者については,3か月間は当該委託者の相応の建玉枚数の範囲において受託を行う旨の規定があり,同条項に基づき,被告会社では,未経験の新規委託者に関しては,@登録外務員の判断枠を20枚,A20枚を超える建玉の要請に対しては,21〜100枚までは管理担当責任者,101枚以上は被告本店管理担当責任者の審査により許可するとの取扱いをしていた(乙70,71号証)。平成6年6月24日,U管理部長は,原告が同条項の枚数制限を越えて70枚まで取り引きすることを許可し,被告会社の本社に宛て,その旨報告した(建玉超過報告書。乙20号証)。
エ平成6年9月30日にLが被告会社を退職したため,同年10月1日から被告Dが原告の担当となった。原告は,しばしば,被告本店を訪れ,ボードの各商品の値動を見たり,値動きのチャートや相場情報ニュース等の資料を見たりしていた。
同年11月過ぎころから金が値を上げ始めたため,同月15日に原告は金20枚を買い増した。しかし,間もなく金相場が下落し,値洗損が200万円を超えたため,同月24日,原告は一旦出金した600万円を再び委託証拠金として入金した(乙7号証の1,乙22号証の8,乙55号証の2,乙59号証,被告D本人)。
なお,原告は,同年11月14日,受託契約準則9条2項但書の規定による,委託本証拠金の預託の時期について売買取引が成立した日の翌営業日の正午までに預託する取扱いを受けたい旨の「委託本証拠金の預託に関する申出書」(乙4号証)に署名押印した。原告は,同申出書において,受託契約準則について「十分理解している」,商品先物取引委託ガイドの内容について「理解している」,危険開示告知書について「十分理解している」,当社からのアンケートについて「回答した」との各回答をした(乙4号証)。
オその後,金相場がなかなか上昇せず,買建玉70枚の値洗がマイナスのままであったため,原告は,他商品での取引を考え,被告Dから,生糸,小豆,綿糸等の商品の証拠金額や倍率,値動き等の説明を受けた。
同年12月から,生糸が連日急騰していたため,原告は,同月7日,8日,9日,12日に合計45枚の買建玉をし,反落が予想されたために,同月14日に全建玉について利食い手仕舞し,6回の取引で合計277万4888円の差引利益を得た。
また,このころ,小豆の売買でも,5回の取引で合計120万4710円の差引利益を得た。
他方,金相場には高騰の気配が見られなかったため,同月8日及び14日に金の建玉を全て損切り手仕舞し,結局7回の取引で合計331万1582円の差引損失が生じた。
その後,同月20日に,綿糸を合計25枚買建玉し,同月21日及び22日に全玉について利食い手仕舞し,3回の取引で合計47万8210円の差引利益を得た(甲15,16号証,乙55号証の2,87,88)。
その他,平成6年中には,生糸の売買で,合計140万5518円の差引利益(取引回数7回)を出す一方,合計78万6237円の差引損失(4回)を,乾繭の取引(4回)で合計3326円の差引損失を出した(甲15,16号証)。
(3)平成7年の取引経過
ア平成7年1月から2月の取引では,綿糸の売買で,合計64万4607円の差引利益(取引回数5回)と合計28万3649円の差引損失(4回)が,生糸の売買で合計34万7031円の差引利益(7回)が,小豆の取引で合計18万6155円の差引利益(5回)と合計28万2010円の差引損失(2回)が,ゴムの売買で10万1646円の差引利益(1回)が,乾繭の売買で,合計42万8076円の差引利益(4回)と合計151万6750円の差引損失(4回)が,それぞれ生じた(甲15,16号証)。
イ他方,平成6年12月15日以降,生糸の買玉を建てていたが,平成7年1月,2月と生糸相場が思うように上がらずに値洗損が増え,同年2月27日には追証が発生した。
そこで,翌28日に,Sが原告に架電して,現在の建玉状況や証拠金等の確認をし,追証拠金325万2355円を入金するか手仕舞かの判断を求めたところ,原告は「担当者から聞いたところによれば,生糸も明日戻るということなので待ってほしい。」と答えたが,Sが「入金するという確約をもらわないと建玉を仕切ることになる。」と言ったので,原告は「駄目なものなら明日仕切るしか方法がない。明日,担当者と相談して対処する。」と答えた。
Sは,この電話での面談内容を精査表に記載して,U管理部長とT本店長に報告したところ,T本店長は,R部長と被告Dに密
に連絡を取って,追証入金不能という最悪の場合には機敏に建玉処分をするよう指示した。
原告は,平成7年2月28日に100万円,同年3月3日に300万円を証拠金として振込入金したが,3月初旬に生糸相場が急落し,更に生糸の値洗損が増えたため,同月3日,10日,13日に生糸の全ての買建玉を仕切った。その結果,19回の取引で合計2256万0764円の差引損失が生じた。
この手仕舞により,被告会社における原告の建玉及び証拠金の預かり現在高は,ともにゼロになった(甲15,16号証,乙7号証の1,6,乙21号証,乙22号証の10,11,乙55号証の77,87ないし89)。
ウ原告は,平成7年3月13日からN株式会社において商品先物取引を開始した。
数回店頭へ出向く等して,ゴム,乾繭,生糸,小豆,輸入大豆,綿糸等の取引を平成8年3月26日まで継続し,その結果,430万円の損失を出した(乙76号証)。
また,原告は,平成7年4月11日から,O商事との間で商品先物取引を開始し,O商事名古屋支店に出向く等して,同年7月6日まで,委託証拠金370万円を預託してゴムの取引を行った(乙81号証)。
エ平成7年3月30日,原告は,帳尻差損金449万5589円を入金し,同年4月3日,委託証拠金として現金300万円を被告会社に納入して,被告会社での商品先物取引を再開した(乙6号証の20,乙7号証の2,7,被告D本人)。
平成7年中のその後の売買状況は以下のとおりである。
綿糸では,合計860万9549円の差引利益(取引回数43回)と,合計464万2088円の差引損失(16回)を生じ,ゴムでは合計1797万2727円の差引利益(82回)と合計787万6616円の差引損失(27回)を,生糸では,合計279万2060円の差引利益(27回)と合計554万5937円の差引損失(14回)を,小豆では,合計625万2901円の差引利益(38回)と合計75万5680円の差引損失(3回)を,乾繭では合計146万6815円の差引利益(10回)を,粗糖では合計9万2704円の差引利益(2回)を,とうもろこしでは合計165万0258円の差引利益(6回)を,輸入大豆では合計66万9038円の差引利益(3回)と合計11万6038円の差引損失(2回)を,金では24万7920円の差引利益(1回)をそれぞれ出した(甲15,16号証)。
オ平成7年11月15日,原告は,弁護士に委任して,O商事に対して名古屋地裁に損害賠償請求訴訟(同裁判所平成7年(ワ)第□□□□号)を提起して,適合性の原則違反,説明義務違反,断定的判断の提供による勧誘禁止違反,虚偽事実の告知,過大取引の勧誘を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求を行ったが,平成8年6月17日,同訴訟の取り下げを申し立てた。しかし,O商事が取り下げに同意せず,原告に対し差損金の支払いを請求する反訴を提起したことから,結局,同年8月5日,原告とO商事がともに相手方に対する請求を放棄する旨の和解により,両訴訟は終了した(乙85,86,89ないし91,95号証)
(4)平成8年前半の取引状況
ア平成8年1月から2月にかけては,ゴムの売買で,1月の下落相場での売建玉による利食いと反騰相場を予想しての買建玉による利食いとで,合計1349万2600円の差引利益(取引回数38回)を得た(甲15,16号証,乙55号証の42,43,乙60号証)。
生糸では,同年1月の上昇相場での売建玉の利食いにより利益を出したが,同年2月に入ると生糸相場が急落したため損失を出し,結局,合計235万9489円の差引利益(10回)と合計553万0365円の差引損失(7回)という結果であった(甲15,16号証,乙55号証の97ないし100,乙60号証)。
小豆では,平成7年11月,12月に売建玉を行っていたところ,平成8年1月初めと中旬には小豆相場が一時下落したものの,1月下旬には高騰し,2月にかけて再び下落するという相場変動があったため,結局,合計168万8523円の差引利益(23回)と合計349万4263円の差引損失(21回)が生じた(甲15,16号証,乙55号証の65ないし68,乙60号証)。
その他,乾繭の売買で合計16万7393円の差引利益(3回)を,輸入大豆の売買で合計361万5421円の差引利益(26回)と合計97万1966円の差引損失(5回)を出した(甲15,16号証)。
以上のような利益状況であり,平成8年2月末時点での建玉内容は,小豆が163枚の売建玉で合計592万2400円の値洗マイナス,輸入大豆が54枚の売建玉で合計143万8500円の値洗プラス,ゴムが216枚の買建玉で合計321万8000円の値洗マイナスという状況であった。ただ,委託証拠金には余裕があり,この時点では1262万4445円の返還が可能であった(乙22号証の26,27)。
イ平成8年3月1日,原告は,被告会社を訪れ,帳尻益金から500万円を出金した(乙6号証の13,乙60号証,原告本人,被告D本人)。
同年3月に入ると,小豆相場は急騰し,ゴム相場は下落したため,原告の小豆とゴムの建玉双方で値洗マイナスが増大し,その日の値動きでは,一時追証状態になる状況であった。
原告は,被告Dと対応を相談し,ゴムは仕切らずに,小豆を順次仕切っていく方針とし,同月1日,7日に,小豆の売建玉133枚を順次損切りし,22回の取引で合計1201万9200円の差引損失を出した。
また,輸入大豆の取引では,215万4105円の差引利益(6回)と5万0620円の差引損失(1回)を出した(甲15,16号証,乙55号証の44,45,67,68,乙60号証)。
ウ平成8年3月10日過ぎころから,ゴム相場がさらに急落し,このまま下落相場が続くと900万円の追証が発生することが予想された。
同月15日,原告が被告本店に来店して差損金に500万円を入金した際,被告Dは,追証が900万円くらい発生する可能性があり,その場合,減玉か追証かを選択すべきことを原告に話した。
原告が建玉維持の意向を示したため,同日夕方,被告Dは再び原告に連絡し,ゴムの建玉を維持するのであれば,早めに900万円の追証を準備するよう話したところ,原告は「300万円なら用意できるが,600万円はすぐにはできない。」と答えた。被告Dは,少しでも減玉して追証を回避したほうがいいと助言したが,原告は,不動産を担保に融資を受けるにも時間を要するため,被告Dに「お金を貸してくれるところはないか。」と短期間の融資をしてくれる人の紹介を依頼した(乙6号証の30,乙55号証の44,45,乙60,61号証,被告D本人)。
そのため,被告Dは,同月15日夜,元同僚の被告Bと飲酒した際,原告の話をしたところ,被告Bが原告に対してであれば,600万円を用立ててもいいと申し出た。
そこで,被告Dは,原告にその旨伝え,原告が被告Bからの借入を希望したので,同月19日,被告本店の向かい側にある喫茶店Vで,原告と被告Bを引き合わせた。
エ平成8年3月19日,被告Bは,W証券株式会社に預託していた中期国債ファンドとMMFの解約金合計580万円余りを受け取ってVへ行き,原告及び被告Dと落ち合った。
原告は,期間平成8年3月19日から同年4月18日まで,利息年1割,借入金額600万円と予め記載し,収入印紙を貼付した自筆の本件借用証(丙1号証)に署名押印し,保証人として被告Dが署名押印して,被告Bの宛名を記載したうえで,本件借用証を被告Bに交付し,被告Bから現金600万円を受け取った。
原告と被告Dは,そのまま被告本店に行き,原告が用意した300万円と被告Bから借り入れた600万円の合計900万円を委託証拠金として入金した(乙7号証の4,乙60,61号証,丙4号証,丙5号証の1,2,被告D本人,被告B本人)。
同月下旬,ゴム相場が更に下落し,小豆相場は続騰したことから,原告の小豆の売建玉及びゴムの買建玉の値洗損がともに増大し,同月27日,977万1270円の追証が発生したため,同額の追証拠金の請求書が原告宛に発送された。
原告は,小豆の売建玉を仕切り,ゴムの買建玉は維持する方針とし,同月28日,小豆の売建玉70枚を仕切って合計801万7613円の差引損失(取引回数7回)を出した。
そして,同日,ゴム相場が反騰したこともあり,追証状態は解消された(甲15号証,乙52号証の1,乙55号証の30,31,44,45,69,70,乙61号証)。
オところが,平成8年4月3日,ゴム相場の急落でゴムの買建玉の値洗損が再び増大し,728万8883円の追証状態となった。被告Dは,建玉維持の意向の原告から,不動産を担保に金員を即時に借りられるところを問われ,Pサービスを紹介し,Vで原告とPサービスの担当者のXを引き合わせた。
同月5日,原告は,Pサービスから1500万円を,返済期限同年7月31日,利息日歩5銭(実質年率18.25パーセント),遅延損害金年40.004パーセントの約定で借り入れて,同額を被告会社の取引口座に入金した(乙7号証の5,乙52号証の2,乙61号証)。
同年4月8日,ゴム相場の下落により,値洗損が増大して,764万8883円の追証状態となったが,その後,相場が反騰して,翌9日には追証状態は解消した(乙52号証の3)。
しかし,同月12日以降のゴム相場の続落により,ゴムの値洗損が更に増大し,同月16日には再び764万8883円の追証状態となった。
原告は反騰を期待したが,翌17日も続落したため,被告Dと相談して,ゴムの全買建玉256枚のうち226枚を処分した。
その結果,合計3967万8586円の差引損失(取引回数10回)が発生した(甲15,16号証,乙6号証の14,乙13号証の297,298,乙52号証の4,乙55号証の44,45,乙61号証)。
カ平成8年4月22日,原告は,Pサービスから,返済期限同年5月31日,利息日歩5銭,遅延損害金年40.004パーセントの約定で1000万円を借り入れて,同年4月23日に被告会社に対し帳尻差損金分として1000万円を支払い,更に,同年5月13日,返済期限同年6月30日,前記同様の利息及び損害金の約定で500万円を借り入れ,同年5月15日,被告会社に委託証拠金として400万円を入金した(甲4号証の2,3,乙6号証の14,乙7号証の10)。
同年4月22日,原告,被告D及び被告Bは,Vで会い,被告Bは,原告への貸付金の返済期限を同年6月18日まで延期することを了承した。
原告は,被告Bに交付した本件借用証(丙1号証)の期間の記載を「同年4月18日迄」から「同年6月18日迄」と1字訂正し,捺印をした上で再び被告Bに交付した(丙1号証,原告本人,被告B本人)。
キ平成8年4月20日過ぎころから,ゴム相場が値を戻してきたため,原告は,同月22日に10枚,23日に20枚,24日に30枚,25日に30枚とゴムの建玉を買い増していった。
その後,ゴム相場は一旦下落したが,同年5月に入ると連日急騰したため,更に,同月7日に30枚,8日に5枚,16日に30枚,28日に90枚,30日に5枚と買い増した。
同年6月上旬ころ,ゴムの値洗損が増大し,同月7日,10日,11日に追証が発生したが,建玉の処分等により同月12日には解消した。
同月6月中旬までのゴムの買建玉合計110枚の処分により,合計286万3233円の差引利益(取引回数7回)と94万3352円の差引損失(1回)が生じた(甲15,16号証,乙6号証の14,乙13号証の301ないし304,307,308,311,317,319,321,323,乙52号証の5ないし7,乙55号証の31,45,乙61号証)。
また,同年4月下旬から同年6月中旬にかけての他の商品の売買状況は,綿糸については,合計29枚の売買で,合計62万4244円の差引利益(取引回数3回)を得,生糸については,合計65枚の売買で,合計5万4401円の差引利益(3回)と合計691万5367円の差引損失(7回)を生じ,小豆については,合計25枚の売買で,3万0031円の差引利益(1回)と合計115万1882円の差引損失(2回)を生じた(甲15号証)。
ク平成8年6月17日,被告Dは,原告からの依頼により,取引口座から55万円を出金し,Yという喫茶店で原告に交付した。
その際,原告は被告Dに対し,J宛に300万円の借用証を書いてくれるよう頼んだ。
被告Dは,いったんは断ったが,原告が何度も頼むので,期限平成8年10月19日,利息年5分で300万円を借り入れた旨の同月19日付の借用証をJ宛に作成し,署名押印したうえで,同日,原告に交付した(甲10号証,乙7号証の5,被告D本人)。
同月17日,被告Bは,被告Dに連絡して,原告への貸付金600万円の返済が翌日の期限になされるか確認したところ,難しいとの回答だった(丙4号証)。
(5)平成8年6月の原告入院以降の取引状況
ア原告は,平成8年6月19日から同年7月24日まで名古屋第一赤十字病院に入院し,その間6月27日に胃の3分の2の摘出手術を受けた(甲5,9号証,原告本人)。
入院中の同年6月下旬から,ゴム相場は下落し始め,値洗い損が増大して追証が発生したため,同月26日,被告Dは原告と対応を相談し,ゴムの買建玉のうち20枚を仕切り,合計216万1693円の差引損失(取引回数2回)が発生した。
翌27日もゴム相場は好転せず,原告からの追証の入金もなかったため,被告Dは,原告のゴムの買建玉140枚を全て仕切り,その結果,合計1163万6762円の差引損失(取引回数6回)が発生した(甲15,16号証,乙13号証の324,325,乙55号証の31,45,乙61号証)。
このゴム買建玉の手仕舞により,原告と被告会社との取引は清算され,この時点での預かり証拠金は1519万7167円,帳尻差損金は1455万1783円,返還可能額は64万5384円であった(乙13号証の325,乙22号証の31)。
その後,同年7月初め,原告は,入院中の病院から被告Dに連絡して,残りの証拠金で被告会社での取引を再開することとし,同月3日,乾繭5枚の買建玉を行った。同月中旬ころ,乾繭相場が下落したため,原告は,同月16日,更に4枚の買建玉を行った。
同月下旬に乾繭相場は値を戻したが,同年8月に入ると急落し,値洗損が増大したため,同月5日,9枚全部を仕切って合計92万5827円の差引損失(取引回数2回)が生じた(甲15,16号証,乙7号証の5,10,乙13号証の326,327,329,乙61号証,被告D本人)。
イ原告は,被告Dから,PサービスよりもQの方が金利が低いと教えられたため,同年8月28日ころ,契約期間2年間(2年ごとの契約自動継続)の約定で,Qから4000万円を借り入れ,うち約3000万円をPサービスからの借入の返済に充てた(甲6号証,乙61号証)。
ウ平成8年8月29日,原告は,乾繭売買の帳尻差損金28万0443円を支払って清算した上で,改めて現金720万円を証拠金として入金して,被告会社との取引を再開した。(乙6号証の33,乙7号証の10,乙22号証の33,乙61号証)。
同年9月4日にゴムを20枚売建玉して,翌5日に全建玉を利食いして,合計1万8346円の差引利益(取引回数2回)を得た。
また,同日,小豆20枚を買い建て,翌6日及び同月18日には,乾繭合計18枚を売り建てた。
そして,同月9日に乾繭の売建玉1枚を仕切って4万1135円の差引損失(1回)を,同月12日には,小豆の買建玉5枚を仕切って,1万0028円の差引利益(1回)を生じた(乙13号証の331ないし337,乙16号証)。
エ平成8年9月11日,原告は,自宅に被告Dを呼び,「私の判断ミスと約束のストップ安の実行おくれ等いろいろの要素重なり損金になりました。
そして私の紹介融資に頼らざるを得ず,私には担保物件が無いから貴方に担保提供を依頼しなければならぬ事態になり誠に申し訳なく思っています(その時私は保証人になる予定でした)。
今後は損金の挽回に務めます。」と原告が記載した原告宛の念書のひな型(乙62号証,以下「念書ひな型」という。)を被告Dに示して,この文面で念書を書くよう依頼した。
被告Dが原告に「ストップ安」とは何かと確認したところ,以前,被告Dが原告に説明した「ストップロス」の意味であることが判ったため,原告は「ストップ安」を「ストップロス」と訂正した。被告Dは,念書の作成を断れば原告が取引をしてくれなくなるかもしれないと思い,原告から示された念書ひな型の内容を一部変更し,「私の判断ミスと約束のストップロスの実行おくれ等いろいろの要素重なり損金になりました。
私には担保物件が無いから貴方に担保提供を依頼しなければならぬ事態になり誠に申し訳なく思っています。
今後は損金の挽回に務めます。(Qからの融資の1000万円は私が責任を持ちます。)」との内容で,原告宛の念書(甲7号証,以下「本件念書」という。)を作成し,署名押印して原告に交付した(乙61号証,被告D本人)。
また,原告と被告Dは,損失を抑えるために値洗損が一定の額になったときは,セリの立会中でも警告のため連絡を入れることとし,被告Dは各商品毎に警告を出す値段を決めた「ストップロスの取り決め」と題する書面を同日付けで作成し,「ストップロスは守ります」と記載して,署名押印した(甲8号証)。
なお,ストップロスとは,相場が予想に反して逆行し,一定の値幅(値洗損)になったときには自動的に損切りして損を抑えるシステムである(乙61号証,被告D本人)。
オ平成8年9月中旬以降,乾繭相場が下落したため,同月25日に乾繭17枚を仕切って合計79万8610円の差引利益(取引回数5回)を得た。
同月27日,小豆を25枚買い増ししたものの,同月末から小豆相場が急落し,10月以降も続落した。
同月7日,原告は被告Dに対し,電話で「明日,建玉を全部処分して720万円を持って来い。」と要求したので,翌8日,被告Dは,小豆の全建玉を手仕舞いし,その結果,350万3989円の差引損失(取引回数5回)が生じた。
そして,同月14日,被告Dは,帳尻差損金と清算した証拠金の残金388万1860円を原告の指定する口座に振り込み,原告の被告会社における先物取引が全て終了した。
結局,原告は,平成6年4月12日に金合計20枚の買建玉を行ったのを初めとして,取引一覧表のとおり,合計589回の取引を行い,うち,差引利益が生じた取引は386回で,その利益の合計額は7572万9106円であったが,差引損失が生じた取引は203回で,その損失の合計額は1億4473万8039円であった(甲15,16号証,乙7号証の11,乙13号証の338ないし342,乙55号証の72,73,113ないし115,乙61号証)。
(6)被告Bの原告に対する本件貸付後の状況
被告Bは,原告に対する本件貸付金600万円の利息又は利息相当の遅延損害金として,被告Dを通して原告から,平成8年5月15日に2か月分の10万円,同年6月17日に5万円,同年8月31日に2か月分の10万円の各支払いを受けたものの,その後支払いがなかったので,被告Dを通じて,原告に600万円の返済を督促していたが,埒があかなかったため,同年10月,原告宅へ直接電話をし,返済に関する話し合いを申し入れた。
その後,原告と被告Bは,電話で話し合ったり,Vで2人で会談を持ったりしたが,被告Bへの返済につき具体的な回答はなされなかった。
そして,平成9年1月20日ころ,被告Bが原告宅へ電話をしたところ,原告は,被告Bからの借入に関する一切の件は,弁護士に委任しているので,弁護士に問い合わせてくれと回答した。
そこで,被告Bは,当事者同士の話し合いによる解決を断念して,弁護士に委任して,同年2月5日,原告に対し,本件貸付金600万円及びこれに対する平成8年8月19日から支払済みまで年1割の割合による約定利息相当の遅延損害金の支払いを7日間以内にするよう請求したが,支払がなかったため,平成9年3月26日,乙事件を名古屋地裁に提起した(丙2ないし4号証,被告B本人)。
(7)被告Dの破産
被告Dは,連帯保証していた義兄の不動産会社が平成5年に倒産し,返済を迫られたので,同7年自宅を売却して返済に充てたが,残債務が残ったので自己破産するため,同8年12月被告会社を退職し,同9年2月17日,名古屋地裁に対し,自己破産の申立をし(同裁判所平成9年(フ)第△△△号),同年4月15日,破産宣告及び同時破産廃止決定を受け,翌16日,免責申立を行った(同裁判所平成9年(モ)第○○○○号)。
そして,同年7月17日,免責審尋を受け,同年8月25日,被告Dに対する免責決定がされた(甲11号証の1ないし6,乙61,82号証,被告D本人)。
2甲事件(被告らの勧誘行為及び取引行為が不法行為にあたるか)について
(1)勧誘行為の違法性について
ア不適格者に対する勧誘
(ア)取引所指示事項(甲18号証の5の1)1(2),受託業務に関する協定(甲18号証の6の1)2,受託業務に関する規則(甲18号証の7)5条(1),及び受託業務管理規則(甲18号証の8)2条は,商品先物取引参加に適しないと判断される者を勧誘しないよう規定する。
また,被告管理規則(乙71号証)2条は,商品先物取引不適格者の参入防止のため,未成年者,精神障害者,主として恩給・年金・退職金・保険金等により生計を維持する者,一定の所得を有しない者等に対する勧誘及び受託を行わないことと規定している。
(イ)原告は,商品先物取引に関する知識,経験を有しておらず,経済力もなかったから,先物取引の不適格者であり,このような不適格者を勧誘することは重大な違法行為であると主張する。
よって検討するに,甲9号証,乙14,16号証,乙7号証の1,及び原告本人尋問の結果によれば,原告は,被告会社を訪れた平成6年4月4日のアンケートで,商品取引を始めた動機に関しては「興味があり自分から」という項目に,投機準備資金に関しては「500万円〜1000万円」という項目にそれぞれマルを付けている。
その当時,原告は,自己資金4300万円くらいを有し,先物取引には,400万円から500万円,最大1000万円まで投資しようと考えていた。原告は平成3年12月の事業廃業後も,年金と駐車場賃貸料とで月40万円くらいの収入があった。
原告は,E株式会社の代表取締役として昭和37年以降平成3年まで会社経営の経験があり,政治経済に関心が深く新聞をよく読んでいるが,商品取引に興味を持ち,投資資金75万円を持参して,自らビル6階にある被告会社の本店を訪れ,商品取引について説明して欲しいと申し入れている。
(ウ)以上の事実が認められ,これらを総合すれば,原告が本件取引を始めた当時,年金以外の一定の収入やかなりの自己資金があり,会社経営の経験等からある程度の経済知識も有し,先物取引に興味を抱いて,自ら取引を希望したと認められる。
そうすると,本件取引開始まで先物取引の経験がなかったとしても,本件取引開始時における原告が先物取引の不適格者であったとまでは認められず,原告が先物取引を行う適格があると判断して,取引を勧誘し注文を受託した被告会社の担当者らの対応が違法とは評価できない。
したがって,原告の前記主張は,理由がない。
なお,原告は,たまたま被告会社の前を通り,好奇心で入った後,数回訪れるうちに,Lと目が合って,冗談話や世間話から金の話に入っていった旨供述するが,前示のとおり,Lから先物取引の説明を受け,委託ガイド等を受け取った平成6年4月4日に,投資資金として75万円を持参していたこと,原告自身,商品取引について説明してほしいと申し入れた旨陳述していること(甲9号証)等に照らし,採用できない。
イ投機性についての説明の有無について
(ア)取引所指示事項1(3),受託業務に関する協定4,受託業務に関する規則5条(2)及び被告管理規則4条は,商品先物取引の仕組みや投機的本質についての説明をしないで勧誘してはならない旨定めている。
また,受託契約準則3条は,新規委託者から委託を受けるときは,商品取引には危険が伴う旨を記載した書面や受託契約準則を契約に先立って交付すべきこととされている(甲18号証,乙11,12,71号証)。
(イ)原告は,Lや被告Dらが原告に対し,先物取引の仕組みや危険性,投機的本質を理解させるような説明を一切しなかったと主張する。
しかし,前示のとおり,原告は,被告本店を訪れた平成6年4月4日に,Lから委託ガイドや受託契約準則を受け取り,自己の判断と責任において売買取引を行うことを承諾した旨の約諾書(乙1号証)に署名押印し,アンケート(乙14号証)の「取引商品についての損益計算の可否」及び「追証拠金に関する理解」の欄には,それぞれ「できる」「理解している」にマルを付け,R部長との面談でも,商品取引の仕組みや追証制度は理解した旨答え,R部長から再度取引の投機性についての説明を受けている。
この点,原告は,儀礼的に約諾書に署名しただけであり,なめられてはいけないと思って前記アンケートの回答は無難なところにマルを付けた旨供述するが,同時に,Lから通り一遍の説明は受け,危険性についても一般的な理解はしていたとも供述していること,同アンケートの「委託ガイドについて」の欄では「内容を理解していない」にマルを付けていること,及び,原告が会社経営の経験があり,新聞の政治経済欄をよく読んでいたこと等を総合すれば,同アンケートの回答は,その時点における原告の先物取引に対する理解状況を概ね正直に回答したものと認めるのが相当である。そして,原告は,平成6年4月4日に証拠金75万円を入金したものの,実際には取引注文は出さず,同月12日に再び75万円を証拠金として入金した上で,初めて金の取引注文を出していて,その間,交付された委託ガイドや資料に目を通すことは可能であり,また被告本店も数回訪れている。
また,同年6月22日のアンケート(乙15号証)の「商品先物取引は総取引代金に比較して少額の委託証拠金をもって取引する為,多額の利益となることもありますが,逆に委託した証拠金以上に損失となる危険性もあります。理解されていますか。」との問いに対し,「理解している」にマルを付けている。これらを併せ考えれば,原告は,Lらから委託ガイドや相場資料等を示されつつ先物取引の仕組みや投機的本質についての説明を受け,その後も被告本店を訪れて話を聞いたり,委託ガイド等に目を通すことにより,取引の概略的な仕組みや危険性についてある程度理解できていたものと認めるのが相当である。
ウ断定的判断の提供
(ア)原告は,平成6年12月始めころ,被告Dが「今,生糸が買い時です。年利3割,4割確実に利益が上がります。生糸で金の損を取り戻しましょう。」「小豆で儲けましょう。」等と原告に断定的判断を提供して,次々に新たな商品の先物取引を行うことを勧誘したと主張する。
商品取引所法(甲18号証の1)94条1号は,利益が生ずることが確実であると誤解させるべき判断を提供してその委託を勧誘することを禁止する。
確かに,甲16号証によれば,Lが担当者であった平成6年10月までの間は,取引商品は金のみ,取引回数は10回,建玉数は合計100枚であったのに対し,担当者が被告Dに変わった以後の同年12月は,1か月間で,取引商品は金,生糸,小豆,乾繭及び綿糸,新規建玉回数は31回,建玉枚数は合計303枚であることが認められ,また,被告Dも,自己の助言や相場観が結果的に逆に行ったときもあり,申し訳ないという気持ちもあった旨供述する。
(イ)しかし,前示のとおり,平成6年5月10日の被告会社のSからの電話に,原告は,担当者のLについて「勧めないから好きだ。いらんことを言われると間違ったときに腹が立つから,その点L君は気にいっとるよ。」と答えており,原告本人尋問で,担当者がうるさく言う人ならやめる旨供述し,被告Dも原告に相場観や売買を勧めると機嫌を損ねたと陳述している(乙60号証)。そうすると,被告Dが原告に「生糸が買い時です。年利3割,4割は確実に利益が上がります。」「小豆で儲けましょう。」等の断定的判断を示して平成6年12月以降の他商品の取引を勧誘し,その断定的判断に原告が盲目的に従って取引を行ったとは考えがたい。
また,原告は,平成6年5月25日に金20枚の買建玉を仕切って43万5239円の利益を得た後,同年6月16日のSからの電話に対し,「金の先限で1295円以下になれば5円くらいの値下がりを買建玉したいと思い,L君に注文を出してある。」と答えている。
そして,金相場が下落した同年6月24日,27日,28日,29日及び同年7月6日,8日に合計80枚の買建玉を行い,その後しばらく取引を行わず,金相場がようやく上昇した同年9月26日に一部を仕切って,差引7万7888円の利益を得たが,その後の金相場は,同年10月は続落し,同年11月初旬から中旬にかけて若干上昇したものの,それ以後動きがなく,原告が買建玉をした値段まで値を戻す見込みは低かった(乙55号証の2)。
原告は,少なくともLが担当者の間は週に1度くらいの割合で被告本店を訪れているから(原告本人),Lと相場の話をすることもあったと
推認され,先物取引の仕組みの概要や投機的本質についてある程度の理解をしていたと認められる。
これらを総合考慮すれば,原告は,平成6年11月以前の取引経験から,相場の見方等をある程度習得し,確実に利益が出るとの保証はないことを理解したうえで,被告Dの助言等を受け,利益を得る見込みの少ない金建玉に見切りを付けて他商品の取引で利益を得ようとしたと認めるのが相当である。
そうすると,平成6年12月以降の取引は,原告も納得した上で行った取引といえ,同月以降,対象商品や取引回数が増えたことを考慮しても,被告Dが断定的判断を示して勧誘を行ったとは認めがたい。
(ウ)したがって,この点に関する原告の前記主張には理由がない。なお,原告は,先物取引の危険性を認識していたと認められるので,「今がチャンスです。」との言葉が原告に対する断定的判断の提供にあたるとは評価できない。
(2)取引行為における違法性について
ア無断売買又は一任売買について
(ア)原告は,被告Dが平成6年12月以降のほとんどの取引を原告に無断で一方的に行った旨主張する。
よって検討するに,商品取引所法94条3,4号,同施行規則(甲18号証の2)33条3号,受託契約準則23条1,2号は,数量,約定価格等の一部又は全部について顧客の指示を受けないで委託を受けることを禁止している。
本件取引は,取引一覧表の通りであるが,被告Dは,売買の注文を出す前に,原告に相場状況を説明して原告の指示ないし了承を得たうえで注文を出していたと供述しており,売買成立日の翌朝には,委託売付・買付報告書及び計算書(乙13号証の1ないし342)が原告に対し郵送され,被告Dからも電話で原告に報告があり(被告D本人),さらに,月初めには,前月分の残高照合通知書(乙22号証の1ないし34)が原告に対し送付されていたのに,原告はこれらの報告に対し何ら異議を述べておらず,残高照合回答書は「通知書のとおり相違ありません。」にマルを付ける等して署名押印したうえ,全て被告会社宛に返送している(乙25ないし51号証)。
また,前示のとおり,本件取引期間中の平成7年3月及び平成8年8月には,被告会社における原告の建玉及び委託証拠金がともにゼロになったのであるから,被告Dが無断で取引を行っていたのであれば,その時点で被告会社との取引をやめることも可能であったのに,原告は,いずれの場合も新たに証拠金を入金して取引を再開している。
(イ)以上を総合すると,平成6年12月以降の取引についても,原告の指示又は了承の上で行われたと認めるのが相当である。
これに対し,原告は,入院期間中の平成8年6月16日から同年7月24日までの取引が,原告の取引中止の厳命に反しなされたと供述する。
しかし,前示のとおり,同年6月26日及び同月27日のゴムの買建玉の仕切は,被告Dが原告とあらかじめ相談した上の対応と認められる。
仮に原告の指示が認められなくても,同月中旬以降,ゴム相場が急落し,値洗い損が増大して追証が発生したものの,原告から追証が入金されなかったために仕切ったのであるから,強制手仕舞に相当し,ゴム相場が続落している状況で,かつ,同月27日原告が手術を受けていた事実を考慮すれば,やむを得ない措置であり,違法な処分とは言えない。
また,同年7月の乾繭の売買も,被告Dが,同月初めに入院中の原告から電話があったと供述していること,同月分の残高照合通知書(乙22の32)に,原告が異議を申し立てることなく署名押印して返送していること(乙49号証),その後も被告Dを担当員として被告会社との取引を継続していることからすれば,原告の了承の上でなされた取引と認めるのが相当である。
さらに原告は,平成7年11月15日当時,商品先物取引に関して,O商事に対する損害賠償請求訴訟を提起しており,他方,被告会社との先物取引を継続しているなどの事実を考慮すると,原告の前記主張は採用できない。
イ無意味な反復売買及び特定売買等
(ア)原告は,本件取引は,特定売買比率や手数料化率(差引損失における手数料の割合)が高く,5日又は10日以内の短期間に頻繁な建て落ちが繰り返されているから,手数料稼ぎのための無意味な反復売買で,原告は,被告らの指示に盲目的に従ったものに他ならず,被告らの行為は社会相当性を逸脱して違法であると主張する。
よって検討するに,取引所指示事項2(1)は,委託者の十分な理解を得ないで短期間に頻繁な売買取引を勧めることを,不適正な売買取引行為として厳に慎むこととしているが,同指示事項はあくまでも取引所内部の行為規範にすぎないから,同指示事項違反を直ちに違法と評価することはできない。
(イ)昭和63年12月27日付農林水産省食品流通局商業課長通達「委託者売買状況チェックシステムについて」(以下「チェックシステム」という。)は,商品取引員に対し,特に取引開始後3か月未満の委託者を対象として,特定売買の回数等の売買取引内容を取引所へ報告することとしている(甲1号証の2)。
しかし,乙56ないし58号証によれば,チェックシステムは,先物取引が有する本質的な難しさとわかりにくさにより,取引開始直後の顧客が多大な損害を蒙ることのないように商品取引員が自主的に顧客管理を行うべき制度として実施するものであって,行政上の規制措置ではない。
また,特定売買とされた売(買)直し,途転,日計り,両建玉,手数料不抜けの5種類の売買についても,その時々の相場水準,値動き,市場の繁閑等により,特定売買が行われる度合いも異なるので,あくまで市場平均に比して著しく多いか否かを程度の問題として問うものであって,特定売買率,売買回転率,手数料化率を一定程度以下に押さえることを具体的に指導するものではなく,また,個々の特定売買そのものの是非を論じるものでも,特定売買率が高いことを法律上の処分の対象とするものでもない。
さらに,特定売買は,商品取引所法等により禁止される売買形態ではなく,先物取引の危険性を十分理解している委託者であれば通常行わない取引であるとも認められない。
そうすると,短期間に頻繁な建て落ちを行ったり,特定売買を勧誘したりすることが直ちに違法となるものではなく,また,特定売買率や手数料化率が高いことから直ちに当該取引が無意味な反復売買として違法となるものでもないというべきであり,ただ,取引員が手数料稼ぎの意図のみをもって主導的に短期間の頻繁な建て落ちや特定売買を行ったことが明らかな場合は,違法と評価しうると解するのが相当である。
(ウ)これを本件についてみると,確かに,本件取引では,別紙「特定売買一覧表」及び別表1ないし5のとおり,売(買)直しが42回,途転が48回,日計りが28回,両建が26回,手数料不抜けが23回行われているが,甲15,16号証のよれば,売(買)直しのうち30回,途転のうち34回,日計りは28回全て,両建のうち19回は,手数料を除いても利益が出ている事実が認められる。
そして,原告と被告Dは,電話等により頻繁に相談し,その時々の相場の動きに注目しながら,売(買)直し,途転,日計り,両建を行っていたものである。
例えば,平成7年10月18日のゴムの両建及び同月19日のゴムの途転に関してみれば,乙55号証の24,26,37,40によれば同月中旬ころの数日間はゴム相場に大きな動きがなく,上がるか下がるかの判断が微妙であったと推測されるから,同月17日に10枚の買建玉をしたものの,相場が下落する場合も考えて売建玉をし(両建),その後,相場が下落するとの判断から買建玉を仕切って更に売建玉をする(途転)ことも,変動する相場に対する対応として不合理なものとまでは言えない。
また,相場が意図したように動かない場合に,値洗利益が手数料分に満たなくても早めに仕切る(手数料不抜け)のは,損失の増大を防ぐための対応として合理性が認められる。
以上のように,本件取引で特定売買とされる取引(手数料不抜けを含む)のうちの約3分の2は差引利益が出ており,差引損失が出た特定売買であっても,変動する相場に対するその時々の対応としては是認できる状況であるから,本件取引における特定売買が,単に手数料目的の無意味な売買であったとは言えない。
(エ)原告は,本件取引における売買回転率が1か月19.4回であり,特に担当者が被告Dに交替した平成6年12月以降は,1か月25.5回にも及ぶと主張する。
確かに,取引一覧表によれば,本件取引期間中に589回の取引が行われているが,そのうち386回の取引(約66パーセント)では,手数料を除いても利益が出ており,他方,差引損失を生じた取引は203回で,その差引損失の合計額は1億4473万8039円であるところ,同合計額の7割近くが,平成7年3月の生糸の売買による差引損失(合計2256万0764円。取引回数19回)と,平成8年3月から6月にかけての小豆とゴムの売買による差引損失(合計7560万9088円。取引回数50回)で占められている。
そうすると,本件取引で損失が拡大したのは,特定の時期における特定の建玉に関し,相場が逆に動いたことが大きく影響しており,全体の7割近くの取引では利益が生じているのであるから,本件取引期間中に589回の取引が行われた事実から直ちに無意味な反復売買であったとは言えない。
さらに,原告は短期間で頻繁な建て落ちが繰り返されている旨主張する。
しかし,甲15号証によれば,1日から5日以内に決済された190回の取引のうち,169回の取引では差引利益が生じており,10日以内に決済された取引を含めても,9割近くの取引では差引利益が生じているから,短期間での決済は,利食い目的でなされたと推認でき,短期間で決済する取引が多いことから直ちに無意味な反復売買がなされたとは言えない。
(オ)以上のとおりであるから,本件取引が専ら手数料稼ぎを目的とした無意味な反復売買であるとは認められない。
ウ過大建玉
(ア)原告は,L及び被告Dの勧誘で,取引開始後3か月以内に合計80枚の建玉を行い,その後も原告の資産や経験に照らし過大な建玉を行った旨主張する。
よって検討するに,乙70,71号証によれば,被告会社においては,新規委託者保護育成措置として,商品先物取引経験のない新規委託者の場合,3か月以内は,外務員の判断による取引限度枚数が20枚とされているところ,取引一覧表のとおり,原告は,平成6年4月の取引開始後3か月以内に合計80枚の建玉をしている。
しかし,新規委託者保護育成措置は,基本的には被告会社の外務員に対する内部規則としての性質を有するものであるうえ,委託者から要請がある場合,管理担当責任者の許可を得れば,前記取引限度枚数を超過することができるとされている。
そして,乙20号証によれば,同年6月24日に原告からの要請を受けて,管理担当責任者により70枚までの建玉の許可がなされた事実が認められ,また,同年4月12日の取引開始
時に20枚を建玉した後,同年6月24日までの約2か月半は建玉しておらず,その後80枚の建玉をしたものであり,前記許可枚数を10枚超過しているものの,100枚までは管理担当責任者の判断枠内である。
以上を考慮すれば,これら3か月間の建玉は,被告会社の内部規則に反するとまでは言えず,新規委託者保護育成措置の趣旨に反するとも認められない。
(イ)受託業務に関する規則4条及び受託業務に関する協定5は,顧客の資産状況や先物取引等の経験等に照らし,明らかに不相当と思われる過度な売買取引が行われることのないよう管理すべきと規定する。
乙22号証の1ないし34によれば,平成8年2月末及び同年3月末時点では400枚を超える建玉がされ,また,平成7年11月末,同年12月末及び平成8年1月末時点では,300枚を超える建玉が,平成7年1月末,同年2月末及び平成8年4月末には100枚を超える建玉がされていたが,その余の月末の建玉数は100枚未満であり,0枚の月も4回あったことが認められる。加えて,前示のとおり,原告が自己資金として4000万円余りを有し,年金以外にも一定の収入があり,不動産も数物件有していて,300枚を超える建玉がなされたのは,取引開始
後1年半以上経過してからである。
以上の点も考え併せれば,本件取引における建玉が,原告の資産状況や先物取引の経験等に照らし,明らかに不相当と思われる程度に過度なものとは認められない。
エ顧客との金銭貸借,融資の斡旋について
(ア)被告Dの行為の違法性
a取引所指示事項3及び受託業務に関する規則5条(5)は,顧客に対し,取引に係る金銭の融資又は融資の斡旋を行ってはならないとし,被告管理規則5条においても,取引所指示事項に定める禁止行為として,融資又は融資の斡旋をしてはならない旨規定している。
原告は,被告Dが,被告Bや金融業者を紹介して原告に借入させ,その金員を委託証拠金として被告会社に入金させたものであり,高金利の融資を斡旋した被告Dの行為の違法性は著しいと主張するので,以下,順次検討する。
b被告Bからの借入について
前示のとおり,原告は,平成8年3月19日,被告Dの仲介で被告Bから600万円を借入れている。
これにつき,原告は,被告Dが「必要な600万円はこちらで用意ができました。」と言って無理やり被告Bから借り入れさせたと主張し,本人尋問で,被告Dから「僕の方で準備した。会社では自分の名前を出せないからAさんの名前を貸してくれ。」と言われたと供述する。
しかし,原告,被告D,被告Bの各本人尋問の結果によれば,平成8年3月10日過ぎ頃からゴム相場が更に急落し,このまま下落相場が続くと,900万円の追証が発生することが予想されて,同月15日に被告Dが原告に減玉か追証かを選択するよう話した事実,原告は,同月19日以前のゴムの取引では差し引き2369万0357円の利益を得ていて,平成7年12月ころからのゴム相場が底値をうって20円以上高騰するというパターンを3回繰り返していたことから(乙55号証の26ないし29,40ないし42),ゴム相場の反騰を期待してゴムの建玉維持を希望していた事実,原告は,300万円は用意できるが,残りの600万円がすぐには用意できないので,被告Dに「お金を貸してくれるところはないか。」と依頼し,後日被告DがBを紹介すると,原告が本件借用証(丙1号証)を事前に記載して用意して,被告Bから原告が600万円を受け取り,他に自分で用意した300万円と合わせて900万円を委託証拠金として被告会社に入金した事実,及び,返済期限を延期するため,被告Dと共に原告も被告Bと会い,原告が本件借用証の「期間」の項目を1字訂正して押印している事実が認められる。
以上の事実によると,原告が追証拠金の資金を得るため,原告の意思で被告Bから600万円を借り入れたと認めるのが相当で,被告Dが原告に無理やり借りさせた事実を認めるに足りる立証はない。
cPサービスからの借入について
平成8年4月から5月にかけてのPサービスからの借入に関し,原告は,被告Dが原告に強く勧め,被告Dが抵当権設定登記費用を負担する等一切の段取りを行った旨主張し,被告Dに3000万円借りさせられたと陳述する(甲9号証)。
乙60号証によれば,被告DがPサービスの担当者を原告に引き合わせた事実は認められるが,被告Dが借入の一切の段取りを行ったことを認めるに足りる証拠はない。
また,同年2月末からゴム相場の下落傾向が継続し,同年4月3日ころには再び追証が発生していること,この時点で損切り決済すると,900万円の追証を入れて建玉を維持した同年3月19日時点よりも損が大きくなることからすれば,相場の反騰を期待して,原告が再度ゴムの建玉維持を希望したと合理的に推認でき,Pサービスからの借入も,原告の意思によるものと認めるのが相当である。
なお,甲4号証の1ないし3,乙6号証の14,乙7号証の5,10によれば,Pサービスからの借入金は,追証,帳尻差損金への支払い及び委託証拠金に使われたものと認められる。
dQからの借入について
平成8年8月のQからの借入に関し,原告は,証拠金不足となった際に,被告Dが金利の安いところを紹介すると言ってQを紹介し,Pサービスへの返済金を含めて4000万円を借り入れさせたと陳述する(甲9号証)。
確かに,被告Dが原告にPサービスよりQの方が金利が安いと話をした事実,被告Dとしても,原告との取引を継続したいと考えていた事実は認められる。
しかし,前示のとおり,原告は,同年6月27日にゴムの建玉を全て損切り手仕舞した後,残った証拠金64万円余りで行った乾繭の取引でも結局損を出し,同年8月28日にQから4000万円を借り入れ,翌29日に前記乾繭の取引による帳尻差損金28万円余りを支払い清算した上で,再度現金720万円を委託証拠金として入金して取引を再開している。これらの取引経過からすれば,Qからの借入は,2度の借入金による追証入金の甲斐なくゴムの売買で多額の損失が出たことから,損を挽回するため,Pサービスへの返済資金に加えて取引再開のための資金を得る目的でなされたものと考えられる。
さらに原告が被告Dの指示に盲目的に従って本件取引を行ったとは認めがたいこと等も考慮すると,Qからの借入も原告の意思によると認められる。
e被告Dの注意義務及び注意義務違反の有無
取引所指示事項及び受託業務に関する規則は,あくまでも取引所内部の行為規範又は自主規制規則であり,この違反をもって直ちに委託者に対する不法行為を構成する違法とは評価できない。しかし,甲18号証の1ないし8,乙71号証によれば,商品取引所法は,国民経済の適切な運営及び商品市場における取引の委託者の保護に資することを目的として定められたものであり,この趣旨を受けて,同法,同法施行規則,受託契約準則,取引所指示事項,受託業務に関する協定及び受託業務に関する規則は,商品先物取引の委託の勧誘及び受託における禁止行為を定め,被告管理規則は,これらの禁止行為を行った者に対する戒告,減給,降職降格,外務行為停止,論旨退職及び懲戒解雇の6種の懲戒を規定する。
そして,商品先物取引が極めて投機性の高い取引で,一般委託者が損失を被る危険性が高いこと,加えて,専門家としての商品取引員と一般委託者とでは,先物取引に関する知識,情報,判断力等の点で商品取引員が優位に立ち,一般委託者がこれと対等な立場に立つのは容易でないことを考慮すれば,商品取引員及びその従業員は,先物取引委託契約に従って委託者が不用意に損失を拡大しないよう忠告ないし助言等を行って委託者を保護すべき注意義務を負うと解するのが相当である。
したがって,委託者に対する融資又は融資の斡旋が,委託者を保護すべき注意義務に違反すると評価しうる場合には,当該融資又は融資の斡旋が不法行為を構成することがありうるというべきである。
これを本件についてみるに,前示のとおり,被告Dが900万円の追証発生の可能性を原告に話し,600万円の準備がすぐにできないと聞いて減玉を助言したにもかかわらず,原告は,ゴムの建玉維持を希望し,不動産を担保に融資を受けるまでの間の短期間の借入先の紹介を依頼したものであって,被告Dも当時当てがあったわけではなく,被告Bに原告の話をして,原告が資産家であることから被告Bも了解して原告に600万円を貸す話として進んだものであり,被告Dが殊更原告との先物取引の継続を目論んで積極的に融資の斡旋を行ったというものではないことからすれば,被告Dが委託者を保護すべき注意義務に違反したとは評価できない。
また,その後のPサービスやQの借入も,原告が不動産を担保として融資を受けることを希望し,被告Dが面識のあった担当者を引き合わせたり,あるいは,少しでも金利が安いサラ金業者名を紹介したにすぎず,いずれも原告の意思による借入であって,被告Dが委託者を保護すべき注意義務に違反したとまで評価できない。
そうすると,被告Dに注意義務違反があったとの原告の主張は,採用できない。
(イ)被告Bの行為の違法性
原告は,被告Bは,被告会社の元従業員であるから,被告会社の従業員に加担して勧誘行為等を行うときは,商品取引員及びその従業員と同等の義務を負うところ,この義務に反して,被告Dと共謀して原告に600万円を貸し付けたと主張する。
しかし,商品取引所法やこれを受けた各種規則等の規定は,商品取引員及びその登録外務員に対する義務等を定めたものであり,元登録外務員まで現登録外務員と同等の義務を負うとの規定は存しないから,元登録外務員が当然に現登録外務員と同等の注意義務を負うと解することはできない。
そして,丙4号証及び被告B本人尋問の結果によれば,被告Bは,貸付金の使途が先物取引であることを推測しつつ原告に600万円を貸し付けたものであるが,被告Dから,原告が資産家であり,期間も銀行から融資を受けるまでの1か月間と聞いたために用立てたものと認められ,その他に,被告Bが被告Dとともに被告会社での原告の取引に関与していたり,貸付の際に,原告に対して取引の勧誘を行っていた事実を認めるに足りる証拠はない。
そうすると,被告Bの原告に対する貸付に関し,被告Bが被告Dと同等の注意義務を負うと解すべき特段の事情は認められない。
したがって,被告Bの原告に対する600万円の貸付行為が違法とは認められない。
オ仕切り拒否
(ア)平成7年4月ころのストップロスの取り決めの有無について
原告は,被告Dは,平成7年4月ころ,原告との間で一定範囲以上の値動きがあった場合には直ちにその建玉を仕切るとのストップロスの取り決めをしたにもかかわらず,これに反して建玉を維持し,平成8年3月19日の手仕舞要求も拒否し,その後,同年10月8日に至るまで原告の仕切り要求を拒否し続けたと主張し,甲9,17号証及び本人尋問で,その旨供述し,平成8年9月11日付の「ストップロスの取り決め」と題する書面(甲8号証,以下「8年書面」という。)と同じものを平成7年4月に作成したと供述する。
よって検討するに,平成7年4月に作成したとされる同書面は現存しない。これにつき原告は,平成8年9月11日に8年書面を作成した際,被告Dが破って捨てた,被告Dに遠慮があったので前の書面をくれとは言えなかった,被告Dが前の書面を捨てたので,原告が平成7年4月時点の値幅の数字を8年書面の右隅に書き入れたと供述する。しかし,被告Dに対し遠慮があったとの供述は,原告の他の供述と符合せず不自然であり,また,被告Dは,8年書面に署名押印する時点で,右隅に,原告が書き入れた平成7年4月の数字はなかったと供述しているから,原告の
前記供述は,反対趣旨の被告Dの証言に照らし採用できない。
原告は,平成8年9月11日,被告Dに,念書ひな型(乙62号証)を示してストップロスの取り決めの実行遅れに対する謝罪等を記載した本件念書(甲7号証)を作成させているが,原告が念書ひな型に当初「ストップ安の実行のおくれ」と記載していたことからすれば,当時,原告にとって「ストップロス」という言葉は馴染みのない言葉であったと推認され,平成7年4月以降,原告と被告Dとの間でストップロスの取り決めに関する話がなされていたとは認めがたい。
更に,原告は,ストップロスを守らずに生じた損失は全て被告Dと被告会社で持つ約束であったと供述するが,平成7年4月以降に生じた帳尻差損金と委託証拠金が相殺されても,原告が抗議をした事実は認められず,平成8年5月15日,同年8月29日には,原告が帳尻差損金に対し現金を入金して清算している。
以上を総合すれば,平成7年4月に被告との間でストップロスの取り決めがなされた事実を認めることはできない。
(イ)平成8年3月19日及びそれ以降の仕切り拒否の有無について
原告は,平成8年6月3日,被告Dに仕切りを要求したが,被告Dが拒否したので,翌4日に被告本社を訪問して,T本部長,Z次長に会い,被告Dの仕切拒否について抗議した旨,及び,取引期間中,被告会社の幹部に4回も面談して,取引の全部中止を申し入れた旨供述する(甲9,17号証)。
しかし,被告会社の幹部に対し委託者から直接,取引全部の手仕舞要求が4度もなされたにもかかわらず,被告会社がこれを拒否して取引を継続するとは考えがたく,また,仮に原告が被告Dや被告会社の幹部に対し明確に仕切を要求したのに,以後も原告の意思に反して取引が継続されたのであれば,これに対し,原告から更に何らかの抗議がなされてしかるべきであるのに,平成8年10月の取引終了まで,原告は,残高照会回答書に苦情等を記載することなく,毎月,被告会社宛に返送している。また,同年8月29日に取引が一旦清算されたにもかかわらず,原告
は再度委託証拠金を入金して取引を再開している。
これらの事情を総合すると,被告Dが原告の意思に反して取引を継続したとは認めがたく,原告の前記供述は採用できない。
被告Dが平成8年9月11日作成した本件念書(甲7号証)には,「約束のストップロスの実行おくれ」との記載があるが,原告が念書ひな型を示して被告Dに記載させたものであること,原告自身,裁判用に有利な書面を被告Dに書かせた旨供述していること,平成7年4月からストップロスの取り決めがなされたとは認めがたいことからすれば,本件念書の前記記載のみから,被告Dに仕切拒否があったと認めることはできない。
(ウ)したがって,平成7年4月のストップロスの取り決めの事実も,平成8年3月19日及びそれ以後の仕切拒否の事実も認められないから,被告会社及び被告Dに仕切拒否があったとの原告の主張は採用できない。
なお,原告は,不足証拠金を支払わないと取引をやめられないと誤解していたと供述するが,前示のとおり原告は先物取引の仕組みを理解していたと認められるから,前記認定を左右しない。
(3)まとめ
以上によれば,甲事件の争点(1)である,本件取引における被告会社及び被告Dの原告に対する勧誘行為及び取引行為につき,違法性は認められない。
したがって,原告の被告会社及び被告Dに対する甲事件請求は,争点(2)ないし(4)につき判断するまでもなく,理由がない。
また,争点(1)の,被告Bの原告に対する600万円の貸付行為について違法性は認められないから,原告の被告Bに対する甲事件請求も,その余の点を判断するまでもなく,理由がない。
3乙事件(被告Bの原告に対する貸金返還請求の可否)について
(1)乙60,61号証,丙1,4号証,丙5号証の1,2,原告,被告D,被告B各本人尋問の結果によれば,被告Bが,平成8年3月19日,原告に対し,600万円を利息年1割,弁済期限同年4月18日の約定で貸し付けた事実,その後,弁済期限を同年6月18日に延期することを合意した事実,同年8月18日までの利息又は利息相当額の損害金として,原告から被告Bに対し,合計25万円が支払われた事実は認められるが,その余の支払がなされた事実は認められない。
したがって,被告Bの原告に対する600万円の貸金返還請求権及び平成8年8月19日以後の遅延損害金請求権の存在を認めることができる。
(2)原告は,被告Bの原告に対する金銭貸付行為は,公序良俗に反して無効であり,被告Bの原告に対する貸金返還請求は,信義則違反または権利濫用にあたると主張するが,前示のとおり,被告Bの原告に対する貸付行為に違法性は認められないから,原告の前記各主張は理由がない。
さらに,原告は,被告Bに対する貸金債務と被告Bに対する損害賠償請求権を対当額で相殺した旨予備的に主張する。
しかし,前示のとおり,原告の被告Bに対する損害賠償請求権は認められないから,原告の主張は理由がない。
4結論
よって,原告の被告会社,被告D,被告Bに対する甲事件請求はいずれも理由がないから棄却し,被告Bの原告に対する乙事件請求は理由があるから認容し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を,仮執行宣言につき同法259条をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

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